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『日本経済新聞』社説 2004年3月31日付

動き始める「国立大学法人」


 全国の国立大学があすから「国立大学法人」として生まれ変わる。

 予算や人事など組織上は国の地方部局だった国立大学がそれぞれ独立した法
人格を持ち、大学運営の指針となる中期目標の達成度をもとに第三者評価で国
の運営費交付金を配分する仕組みに変わる。学長の権限を高めて経営の効率化
を図る一方、研究成果を社会的に生かすために技術移転機関(TLO)への出
資や「大学債」で資金調達が可能になるなど、大幅な自由が認められる。

 日本の大学はいま大きな転換点にある。来年度から国立大学ばかりでなく、
公立私立を含めてすべての大学が認証評価機関の評価を受けることを義務づけ
られる。その結果は国などの資金配分に反映される。これまで大学は学部など
の設置認可に厳しい基準を設け、財政も入り口での管理に委ねられてきた。そ
の重点を第三者機関による教育研究実績の評価に移すことで、「事後チェック」
による競争を高める仕組みである。

 優れた研究活動を30件選んで重点的に国の資金を交付する「21世紀COEプ
ログラム」など、各大学の実績にもとづく競争的資金配分が広がっている。
「国立大学法人」の発足により、大学の生き残りへ向けた競争は一層激しくな
ろう。

 国立大法人を支える運営費交付金が国の予算であることに変わりはないが、
「聖域」だった国立大学特別会計などと違って政策的に増減が可能な裁量的経
費となるから、大学独自の資金調達力が問われることにもなる。大学の運営や
経営の意思決定には従来の教授会に代わって、学外からの人材を含めた役員会
や経営協議会などが重要な役割を担う。

 これまで法人化に伴う中期計画の策定や運営費交付金の配分を巡って、かえっ
て文部科学省の介入が強まるという批判も国立大内部に少なくなかった。実際
文部官僚OBらを役員に迎えている法人が目立つ。

 国立大学が大きな自由を手にするからには官僚依存の体質を改め、横並びを
脱して新しい大学へ自立を目指す必要がある。教育研究の質を国際的な水準に
高めると同時に、経営の透明性と国民に向けた説明責任がこれまで以上に重さ
を増すことはいうまでもない。