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新首都圏ネットワーク

『東京新聞』社説 2004年3月30日付

国立大法人化 みんな目を凝らしてる


 国立大が一日から法人化される。これまでの「親方日の丸」的な存在は許さ
れない。目を光らせているのは、文部科学省だけではない。企業や社会も目を
凝らしている。個々の大学の奮起を望む。

 「大学の常識は社会の非常識」などと、独りよがりの傾向が、これまでの国
立大には確かにあった。この大学の「常識」は、これからは通用しない。評価
のメスが入り、しかもその結果が公表されるからだ。

 評価の主体としては、今のところ文科省の国立大学法人評価委員会だけが、
クローズアップされている。個々の大学の目標達成度などを委員会が評価し、
その結果を運営費交付金の額に反映させる。法人化と同時に発足する制度だけ
に、当面、世間の耳目が集まるのはやむを得ない。

 しかし、法人化を機に国立大に厳しい評価の目を向けているのは、なにも委
員会だけではない。

 例えば企業。個々の国立大が独立した法人になれば、産学連携への足かせは
なくなる。双方が相手を求めて走りだしたのはそのためだ。

 既に東京大は三菱電機と交通安全などの、名古屋大はトヨタ自動車と環境や
材料の各分野で、それぞれ包括的な提携の合意に達するなどした。これらはほ
んの氷山の一角だ。

 企業側からいえば、連携の相手には会社の盛衰を託すことにもなる。大学の
研究成果が社会に役立ち、広く普及すれば、大きな収益につながる。もちろん、
その逆もある。それだけに、企業の大学への評価は、以前にもまして厳しくなっ
ている。

 産学連携によって、大学の自治や学問の自由が侵されてならないのは、言う
までもない。

 最近、在学中に企業などで仕事を体験する制度を取り入れる動きが、各大学
でみられるようになってきた。これも、個々の大学を正確に評価する絶好の機
会ととらえる企業は多い。学生を通して、それぞれの大学の教育や研究のレベ
ルが、透けて見えるからだ。

 法人化されると、一律だった授業料に幅を持たせられるなど、国立大も思い
切った特色を出せるようになる。受験生やその保護者も、これまでなかった特
色を見比べるなど内容の吟味ができる。

 各方面から一斉に評価のメスが入る国立大にとって大切なのは、何よりも広
報を充実させることだ。研究内容を誰にも分かるよう、正確に説明できる教授
レベルの研究者を、少なくとも一人は常駐させたい。

 これまでのように事務系の職員を配置してこと足れり、では、多方面からの
正確な評価は期待できない。