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新首都圏ネットワーク


『信濃毎日新聞』社説 2004年3月30日付

社説=国立大法人化 新たな役割を探りつつ


 国立大学が四月から、国立大学法人に衣替えする。研究や人事面でより独自
色を打ち出せる半面、基礎的分野に光が当たりにくくなる心配も消えない。試
行錯誤しつつ、新時代の大学像を探る必要がある。

 国立大はこれまで、文部科学省の内部組織に位置づけられていた。そこから
切り離され、八十九の独立法人として再出発する。

 民営化への一歩ではない。財政措置など、あくまで国の関与は残る。それで
も明治時代の帝国大設置、戦後の新制大発足のときに匹敵する大きな変革と言
える。

 かつてと異なるのは大学進学が一般化したものの、少子化が急速に進み、公
私立を含めて学校運営が一筋縄ではいかなくなっている点だ。

 さらに、国際市場での日本の競争力強化を目指し、産学官の連携が一段と強
まっている。産業振興に直結する研究に、とりわけ経済界の関心が集まりがち
な傾向も見逃せない。

 そうしたうねりの中で、新たな国立大法人がどんな役割と責任を担っていく
か。大学の自治、学問の自由も絡み、将来の日本の高等教育のありようを左右
する。

 こんどの改革で特徴的な一つは、学長の権限を強めたトップダウン型の運営
志向だ。教職員の身分が公務員でなくなるため、外国籍の研究者を学長に招く
ことも可能である。

 大学を支える三本柱のうち、役員会と経営協議会には一定数の学外者を登用
する。とかく硬直化が指摘される大学内部に外から多様な声が届き、意思決定
の迅速化、透明化が図られる期待は小さくない。

 他方で気掛かりもある。法人化後は向こう六年の中期目標、中期計画をまと
め、文科省の認可を受ける。この達成状況が交付金の配分にも影響するだけに、
公平な評価のあり方が問われてくる。

 成果の測りにくい研究、地味な基礎科学が不利に扱われない配慮が要る。例
えば人文・社会系が低迷すると、地域や国の成り立ち、現状、未来図を多角的
に分析、把握する領域が後退する懸念も考えられる。

 文科省の権限も依然として強大だ。予算面と天下り人事を通じ、各大学の自
主性を妨げるようなことは避けなくてはならない。

 県内では信州大が法人化し、長野高専は全国の高専が一つの法人に一本化さ
れたうえで個別の活動を展開する。信大は超微細技術や臓器移植・再生医工学
などを重点研究に掲げている。視野広く地域とともに積極的に取り組んでもら
いたい。