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新首都圏ネットワーク


『中国新聞』社説 2004年3月29日付

国立大の法人化 カギ握る個性の発揮


 広島大や山口大など全国の国立大が四月一日から、法人として新たなスター
トを切る。私立大に比べ大小のスケールの差はあっても個性に乏しい印象のあっ
た国立大だが、今後は文部科学省から独立して経営権を持ち、各大学は自らが
描いた将来像に向かって自らの責任で進む。個性を発揮してほしい。

 国立大は従来、文科省の強い影響を受けてきた。例えば広島大の平和科学研
究センターの場合、省令で定められた組織として認められず、専任の教官を置
くことができないなど運営には難しい面があった。新広島大の場合は、北京教
育センターなどと並ぶ研究施設として位置付けている。内容をいかに充実させ
るかは今後の課題。被爆地広島の大学の組織として、機能がより発揮できるよ
う期待したい。

 同大は法人化後の目標を「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」に置
く。文科省が予算を重点配分する「二十一世紀COE(卓越した研究拠点)プ
ログラム」に選ばれた半導体や放射線医療の研究などを柱に、大学の存在感を
アピールする。企業との共同研究も積極的に進める。ユニバーシティー・アイ
デンティティー戦略も取り入れ、独自のマークなども定めた。

 大学の特色づくりはこれまで、私立大の側の努力が目立っていた。創始者や
歴史に残る名物教授をめぐる資料などを保存、研究することで伝統を強調。大
学の個性に結び付けるなどしてきた。広島大で今回、初代学長を務めた森戸辰
男氏の資料などを管理する文書館が法人化と同時に発足するのも、アイデンティ
ティーを確立する試みの一つといえる。

 痛みもある。政府は大学への運営費交付金のうち、一般管理費と教育研究費
を毎年1%削減する方針を打ち出している。また、各大学が六年間のめどでつ
くる中期目標・中期計画を文科省の評価委員会がチェック。結果は交付金に反
映されるだけに、自主性がどれだけ確保されるか懸念も残る。

 教職員が公務員でなくなるのも大きな変化だ。広島大の場合、当面は従来の
方針を踏襲するが、二年後は人事評価制度を本格導入する方向で協議が進む。
任期制度を大幅に取り入れ、著名な業績を持つ研究者が学長以上の処遇をされ
る可能性も話題に上る。歓迎する声の一方、教職員のモチベーション(意欲)
が保てるかも課題だ。産業と結び付かない研究分野が取り残される不安も払しょ
くできない。

 法人化後に正式決定する中期目標・計画の素案では、広島大をはじめ山口大
や島根医科大と統合した島根大など中国地方の大半の大学が、地域への貢献や
寄与を掲げている。産業関連ばかりでなく、生涯教育の推進や公開講座の充実
も盛り込んでいるのは心強い。社会に貢献し、社会に育てられる開かれた大学
としての成長を見守りたい。