トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク

『山形新聞』2004年3月31日付

体質改善へ正念場〜山形大、1日に法人移行


 国立大を国の直轄から切り離す国立大学法人法の施行に伴い、山形大(仙道
富士郎学長)は1日、全国88の国立大とともに法人に移行する。組織運営、人事
制度、財務会計すべての面でかつてない改革が求められ、硬直化した体質を改
善できるかどうか正念場を迎える。大学運営と教育研究は、どのように変わる
のだろうか。法人への移行を前に整理してみた。

【大学運営】

 最大の特徴は、学長のリーダーシップがより求められること。予算や人事は
これまで各学部の教授会が仕切ってきたが、今後の大学運営形態は学長のトッ
プダウン方式になる。

 仙道学長は「一方的に押し付けるのではなく、ボトムアップに基づいたトッ
プダウンを心掛けたい。若い教職員の考えを吸い上げ、より良い経営に努める」
と語る。

 予算の編成と執行、中期目標と中期計画といった最重要事項を決定するのは、
新たに設置した「役員会」。理事は学生担当の沼沢誠、教育研究担当の鬼武一
夫の両副学長ら5人。

 経営に関する事項を審議するのが「経営協議会」で、学内外の14人で構成。
半数の7人が学外で、ブルドックソース社長の池田章子さん、農林漁業金融公庫
副総裁の尾原栄夫さんら多彩な人材がそろった。仙道学長が「山形大に対する
愛情、大学人にはない鋭い視点に驚いた」と話す通り、豊かな発想で大学運営
に新風を吹き込むことが期待されている。

 劇的に組織が変わる中で、関係者が不安を募らせているのが予算面。目標達
成度に応じた運営交付金が国から配分されるが、シーリング設定などで先細り
の懸念が付きまとう。人件費と物件費のバランスは学部の裁量に委ねられ、厳
しさが増せば教官の数を減らしてしのぐ事態も想定される。

 予算が絞られることを視野に、医学部はリフォーム委員会を設置した。今後
は内部で倹約してねん出した経費で、老朽化が目立ってきた講義棟と研究棟を
改装する。

 法人化を前に、学部と付属病院の運営一本化に踏み切った嘉山孝正学部長は
「これまで以上に知恵が求められる。小粒でもきらりと光り、社会からきちん
と認められるような学部にしていく」と抱負を語る。

【教育研究】

 法人化に際し、山形大は基本理念に「自然と人間の共生」「充実した人間教
育」「社会との連携重視」を掲げた。これからは社会と学生のニーズを踏まえ、
大学の判断で弾力的に学科を編成したり、授業の在り方を工夫したりすること
が可能になる。

 現在の最高議決機関、評議会は「教育研究評議会」に名称を変え、6人の学部
長らが教育研究面を審議する。

 予算の問題に絡み、多くの関係者は「教育と研究が荒廃する」「基礎学問の
分野がおろそかになる」と口をそろえる。経営の論理が持ち込まれるため、外
部からの資金が見込めない文系学部や理学部は強い危機感を抱いている。

 理学部の加藤静吾学部長は「基礎科学分野が衰退しないように、どう工夫す
るか。とても重い課題を背負ってしまった。研究室を維持する基本的な予算に
なる積算校費は現在、1人当たり70万円だが、減る覚悟はしている」と胸中を明
かす。

 授業料は貴重な収入源で、一定の上下幅があるが、各大学が決定することが
できる。山形大は当面、現行標準額の年間52万800円を維持する考えで、仙道学
長は以前から「学生に負担を強いるのは好ましくない」とのスタンス。

 一方、将来的な人員と給与の削減について、仙道学長は「予算が少なくなれ
ば、十分にあり得る」と言明しており、状況によっては教職員にしわ寄せが来
ることになりそうだ。

―山形大
 1949(昭和24)年5月の国立学校設置法で、山形高等学校、山形師範学校、山
形青年師範学校、米沢工業専門学校、県立農林専門学校を母体として、文理、
教育、工、農の4学部で発足。現在は人文、教育、理、医、工、農の6学部で、
1学年の入学定員は1730人。南東北3大学の教員養成課程再編・統合協議に伴い、
教育学部が新学部への改組を検討中。本部は山形市小白川町1丁目。仙道富士郎
学長。