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新首都圏ネットワーク

『読売新聞』社説 2004年3月27日付

[国立大法人化]「新たな光景を改革に結びつけよ」


 欧米の大学の式典で見られるアカデミックガウンが、東大の卒業式でも着用
された。「権威主義」の声もあったが、「東大メンバーのアイデンティティー
を表現、涵養(かんよう)する」として、実施された。全国の国立大学が来月、
国から独立した法人になるのを控えての同窓意識の育成策だ。

 記者会見で紹介された新しい東大の常勤理事、副理事には、情報関連企業の
常務など、民間出身者の姿が目立った。広報、財務などの業務を受け持つ。広
告会社からスカウトされた職員もいる。

 従来の国立大にはなかった光景の出現は、戦後最大の大学改革の実施が直前
に迫ったことを実感させる。法人化の目的を見失うことなく、大学の教育、研
究、社会貢献の実を上げねばならない。

 法人化論議の過程で、大学の自主性の尊重、国による大学への介入の排除が、
大学関係者から強く主張された。

 今、問われているのは、尊重されるべき大学の自主性の有り様だ。

 各大学が文部科学省に提示した中期目標・計画の素案には、重点を置く研究
分野、教育の改善や成績管理、産学連携のあり方など、それぞれの大学の青写
真がそれなりに描かれている。

 大学全体の将来像を提示することのなかった国立大学が、今後の方向性を検
討し発表したことは、大きな進歩だ。

 だが、数値目標を入れなかったり、抽象的な表現にとどまっていたりするケー
スも少なくない。来月の最終案提出までに、できる限り具体的な目標・計画を
まとめる必要がある。

 最大の懸案である評価についても、大学の自主的な取り組みが求められる。

 各大学の取り組みは六年後、教育、研究、運営などについて評価され、予算
配分に反映される。その評価の具体的な方法や基準が決まっていない。

 大学側の不安は強いが、計画の実施と評価方法は表裏の関係にある。まず各
大学が、自らの目標・計画を評価する方法を工夫することが大切だ。

 文科省も、大学側に期待するだけではすまない。評価方法の確立は、日本の
大学の全体構想にもかかわる。

 規模も分野も異なる大学を同じ基準で評価することは実態に合わない。目標・
計画によって各大学を研究、教育、地域貢献型などにグループ分けし、それぞ
れに基準を設けることも一案だ。本格的な論議を早急に始める必要がある。

 問題は山積している。だが、この道を進む以外に方途はない。国立大学に出
現した新たな光景を大学の改革に結びつける努力を、関係者に求めたい。