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『岩手日報』夕刊 2004年3月25日付

国立大学法人岩手大の針路(4)法科大学院構想

地域根差した法曹を


 岩手大は研究教育組織の再編計画の柱に、弘前大、秋田大との連合方式によ
る法科大学院の設置を据え、「弁護士過疎」とされる地域のニーズに応える大
学づくりを進める。

 法科大学院は1学年の定員30人で、法学未修得者を想定した3年制。今春
の開設は教員不足などで断念したが、来春の設置に向け岩手大のほか、弘前大、
岩手弁護士会から18人の教員を準備できる見通しがついた。

 文部科学省が示した最低ラインは20人で、設置申請を6月に控え、スタッ
フの確保に奔走している。一方、全国では約20大学が来春の法科大学院設置
を計画。岩手大でも3人の教員予定者が引き抜かれるなど大学間の競争が激化
しており、楽観できない状況だ。

 現在、東北3県の弁護士数は岩手50、青森44、秋田52。弁護士1人当
たりの県民数はいずれもワースト10に入る。2009年からは、被疑者国選
弁護人制度が導入される。起訴される前の被疑者段階から弁護が必要となる事
案も増え、弁護士の需要は高まる一方だ。

 岩手弁護士会の加藤文郎副会長は「多重債務に絡む事案も増加しており、弁
護士の絶対数はまったく足りない。公益理念を持って地域で活躍できる法曹を
育成していきたい」と支援を続ける。

 岩手大に法科大学院が設置されれば北東北待望の法曹養成機関となるが、教
員の確保以外にも不透明な要素が多い。

 今春、全国で68の法科大学院が開設され、総定員は5590人。06年か
ら始まる新司法試験の合格者は10年までに年間3000人まで拡大するが、
司法改革が目指す「大学院修了者の7〜8割が合格」という目標に比べ、大幅
な定員超過となる。

 斎藤徳美学長特別補佐(地域連携担当)は「東京の私大がこれだけ開設する
と志願者が流れ、岩手大に設置する意義が失われる恐れがある」と危ぐする。

 同大が地域に根差した法曹の育成を掲げても、県内出身者がどれほど志願す
るかはまったく読めない。東北地方では今春、宮城県の東北大と東北学院大が
法科大学院を設置するが、岩手県内からの合格者はそれぞれ数人にとどまった
という。

 加藤副会長は「岩手大には社会人の入学枠を拡大するように要請したい。県
内での弁護事案は身近な人間関係によるものが多く、社会経験が役立つことが
多い」と、多彩な人材の受け入れを期待している。

メ モ

 法科大学院 専門性の高い職業人を育てる専門職大学院の一つで、法曹(裁
判官、検察官、弁護士)を養成する。モデルは少人数で実務的な教育をする米
国のロースクール。修業年限は3年だが、法学既習者は2年も可能。修了者は
06年から始まる新司法試験の受験資格を得る。