トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク


『岩手日報』夕刊 2004年3月24日付

国立大学法人岩手大の針路(3)地元企業と連携推進

知財活用し資金獲得


 法人化により各国立大の自由裁量が大幅に拡大する一方、国からの交付金に
頼るだけでなく、自己責任で運営資金を工面することも迫られる。

 猪内正雄副学長(学術担当)は「地域に役立つ大学になることが必要。法人
化後は、研究も実用化できる応用的なものが中心になるだろう」と社会貢献を
強調した。

 岩手大学は法人化後、地元企業との連携を進めてきた地域共同研究センター
を地域連携推進センターに再編する。大学が所有権を持つことになる特許など
の知的財産の管理を徹底し、企業に技術移転。ロイヤリティー(特許使用料)
など外的資金を獲得することで、大学の競争力を強化する。

 同大は、文部科学省が2004年度から実施する「大学知的財産本部整備事
業」の対象に選ばれており、年間約4000万円の補助金を原則5年間交付さ
れる。この間に戦略的な連携方法を確立させたい考えだ。

 非公務員となる教員が企業の役員を兼ねることも可能で、これまで以上に柔
軟な連携が期待される。一方、教員の学問探究と企業の利潤追求の間にあつれ
きが生じることや、大学全体が市場原理に巻き込まれる恐れもある。

 技術移転マネージャーの対馬正秋客員教授は「情報セキュリティーの徹底は
企業と付き合う上での絶対条件」と説明。

 地域連携推進センター長や弁理士らで組織する発明審査委員会を設置し、特
許出願の可否審査や発明者の異議申し立てに対応する。知的財産活用で得られ
た収入の約30%を発明者へ還元。残りを同センターの運営費や大学研究費な
どに等分し、人文社会や教育分野の研究にも充てることで、総合的な学術振興
を図るという。

 東北地方から岩手大とともに同本部整備事業に選ばれた東北大(仙台市)は、
大手企業との連携が中心。海外60以上の大学と協定を結んでおり、材料科学
など世界トップの研究水準を誇る分野でも協同研究や人的交流を推進する。一
方、岩手大は、地元企業のニーズに応えていくことで、地域社会との共存共栄
を目指す。

 岩手大とトリアジンチオール(硫黄の有機化合物)の協同研究を進め、最先
端の電子材料などを開発している東和電化(玉山村)の三浦宏社長は「企業と
大学の研究に温度差があるのは当たり前。それでも岩手大は企業の要求に応え
ようと努力してくれている。海外との競争を考えても、研究成果の事業化は不
可欠だ」と連携強化の必要性を強調する。

メ モ

 大学知的財産本部整備事業 特許や実用新案など、大学の知的財産の取得や
有効活用を支援する文部科学省の事業。04年度は岩手大、東北大をはじめ3
4機関が選ばれ、人件費や運営費など年間4千万〜8千万円を原則5年間補助
する。