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新首都圏ネットワーク


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Academia e-Network Letter No 80 (2004.03.23 Tue)
http://letter.ac-net.org/04/03/23-80.php
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「ところが、実際に法廷に現われたアイヒマンは、アー
レントの目から見て、上からの命令を黙々とこなす、
どこにでもいる平凡な役人でしかなった。」

仲正昌樹著『「不自由」論』【4】p41

━┫AcNet Letter 80 目次┣━━━━━━━━━ 2004.03.23 ━━━━

【1】都立大の危機ーーやさしいFAQ
J1: 「新しい大学」の大学院はどうなる
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-j.html#shin-daigakuin

 【1-1】 学長予定者西澤潤一氏による大学院の理念(2004年3月11日)
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/nishizawa-rinen.html

【2】158大学界有志559名の都議会への要請書 2004.3.18

【3】全体主義に警鐘 仏の寓話「茶色の朝」静かなブーム  
北海道新聞 2004/03/19 15:30
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/sch-kiji.php3?&query=%92%83%90F%82%CC%92%A9&dd=20040319&kiji=0031.200403195779

【4】『「不自由」論ーー「何でも自己決定」の限界』より
仲正昌樹著、ちくま新書432、2003.9
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480061320/

━ AcNet Letter 80 【1】━━━━━━━━━━ 2004.03.23 ━━━━━

都立大の危機ーーやさしいFAQ
J1: 「新しい大学」の大学院はどうなる
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-j.html#shin-daigakuin
───────────────────────────────
J-1 ところで,B-4(*)で話がちょっとあったけど,「新しい大学」
の大学院はどうなるんですか?発足が遅れるという話を耳にしたん
ですが。

(*)http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/kiki-b.html#toritsu-insei

ポーカス博士

そう,2005年4月には大学院を開設しないというんじゃ。一年後の
2006年に新たな構想で大学院を作ると言っておる。しかし,実際
には2005年4月の段階で暫定大学院と呼ばれる今の都立大と同じ大
学院が作られる。これは後で(J-3)説明しよう。

 2004年3月11日に学長予定者の西澤潤一氏が,「大学院設置に当
たっての基本理念」というものを発表した。それが,この文書【】
じゃ。3月15日にすでに組合からの意見表明(pdf)
http://www5.ocn.ne.jp/~union-mu/0315.pdf されているが,問題
の文書自体は公表されていなかった。ここで内容を簡単にまとめ
てみると,

(1)現状の継続ではない新しい大学院を作る,

(2)アジアに目を向けた大学院にする,

(3)「大都市における人間社会の理想像の追求」と3つの使命(注1)
に重点的に取り組む,

(4)実用・実践から学術の体系を創造する(社会のニーズに対応し
た研究を行う),

(5)地場優先を意識し,社会貢献に取り組む,

(6)東京ある企業や試験研究機関等と積極的に連携しする,

(7)これまでの徒弟制度的な研究者養成型の教育カリキュラムを見直す,

(8)常にヨコとのつながりを意識し他分野,異分野との連携,学際
的教育研究に取り組む,

(9)学部・大学院一貫教育,初等中等教育との連携を意識する,

(10)組織は細分化・固定化せず大括り化し,常に時代のニーズに敏
感に反応できる組織とする。

*注1:管理本部の「新大学」説明文書(*2) にある「社
会が求める人材を輩出」,「研究成果の社会還元」,
「経営の視点の導入」のことを指すと思われる。
(*2)http://www.daigaku.metro.tokyo.jp/kyogaku_hituyosei.pdf

えっ,わしのコメントだって?これは教育理念じゃない。大学院を
作るにあたっての指針でしかない。「西澤先生,あなたは工学の研
究者ですね。でも大学の研究教育は工学部だけで成り立っているの
ではありませんよ」というのがわしの最初のコメントじゃ。今回の
「首大」構想は,実利優先でその思想は大学院にまで及ぶというこ
とが判明した。研究・教育の継続性放棄,都立大の研究者養成機関
としての伝統を放棄,基礎研究の放棄がその基礎をなしていて典型
的に工学部的発想じゃ。「3つのホウキ」が敢えて言えば,理念な
のかもしれん。もう一言言うと,「世界とりわけアジアに目を向け、
「東京(江戸)」そしてその「大都市性(近代化の道程)に着目す
る」教育・研究理念というのは,何なのか?大学の教育や研究すべ
てにこのような色づけを求めるというのは,正気の沙汰ではない。
「東京は、アジア古来の伝統と近未来のビジョンを象徴する都市で
ある」という断言の仕方の背後に,川勝平太氏と同じような自国文
化崇拝の危険性を感じ取ってしまうのは,私だけではあるまい。客
観性を求められる学問(科学)や教育がねじ曲げられないことを切
に望みたい。

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【1-1】 学長予定者西澤潤一氏による大学院の理念(2004年3月11日)
http://www.bcomp.metro-u.ac.jp/~jok/nishizawa-rinen.html
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大学院設置に当たっての基本理念

1. 現状の継続ではなく、新しい大学院としてあるべき姿を検討する。

2. 東京は、アジア古来の伝統と近未来のビジョンを象徴する都市
である。

世界とりわけアジアに目を向け、「東京(江戸)」そしてその
「大都市性(近代化の道程)」に着目する。

アジア共通の「大都市」の課題に対して、江戸時代から東京が作
り上げてきた体験、技術をもって果敢に取り組み、アジアをはじ
めとする世界に発信・貢献する。


3. 首都大学東京のコンセプトである「大都市における人間社会の
理想像の追求」と3つの使命に重点的に取り組む。

4. 基礎研究だけに閉じこまらず、常に現場を意識し、よく問題を
つかまえて社会のニーズに対応した研究を行う。実用・実践から
学術の体系を創造する。

5. 地場優先ということを意識し、産学公連携をはじめとする社会
貢献に取り組む。

6. 東京に集積する企業、試験研究機関等と積極的に連携し、大都
市にある大学としてのメリットを生かす。

7. これまでの徒弟制度的な研究者養成型の教育カリキュラムを見
直す。

 また、社会人、専門職業人、大学院を前提とした理工系など、現
代の大学院に求められる多様な人材ニーズに応える。

8. 他分野、異分野との連携、学際的教育研究に取り組むなど、常
にヨコとのつながりを意識し、総合大学としてのメリットを生か
す。

9. 学部・大学院一貫教育など、学部とのつながり、さらには将来
的な学制の改正も含めた初等中等教育との連携を意識する。

10. これらのことを実現するにふさわしい組織形態とする。

 組織は細分化・固定化せず出来る限り大括り化し、常に時代のニー
ズに敏感に反応できる組織とするとともに、弾力的に見直す。


         平成16年3月11日
                    首都大学東京学長予定者
                            西澤 潤一


━ AcNet Letter 80 【2】━━━━━━━━━━ 2004.03.23 ━━━━━

158大学界有志559名の都議会への要請書

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To: 東 ひろたか委員長 <h-higasi@xb4.so-net.ne.jp>, 臼井 孝副 委員長
<t-usui@mwc.biglobe.ne.jp>, 大塚隆朗副委員長 <dpj_m@ma.rosenet.ne.jp>,
山口 文江理事 <post@seikatsusha.net>, 福士 敬子議員
<fukushiy@tokyo.email.ne.jp>, 山下 太郎議員 <zaq58435@fox.zero.ad.jp>,
石川 芳昭議員 <hotmail@ishikawa-yoshiaki.com>, 山本 賢太郎議員
<kentaroh@dl.dion.ne.jp>, 曽根 はじめ議員 <sone@kitanet.ne.jp>, 樺山
たかし議員 <t-kabayama@muh.biglobe.ne.jp>
Cc: 33都議会議員 <togikaigiin>
From: admin@poll.ac-net.org
Date: Thu, 18 Mar 2004
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2004年3月18日(木)

東京都議会文教委員会委員 各位
Cc:都議会議員

(電子メールアドレスを公開されている33名の都議会議員に送付します)

国公私立教員有志564名一同

連絡先:辻下 徹
Tel & Fax: ***********
email:admin@poll.ac-net.org


本日の東京都議会文教委員会における公立大学法人「首都大学東
京」の審議にあたり、全国の国公私立大学151校の教員有志5
64名が、議員のみなさまに、以下の要望書を再度送付いたしま
す。

昨年12月2日に大学委員会委員の方々に同要望書を2回目に送
付してより新たに222名の大学界有志が連署に加わり、連署者
が所属する大学数も52校増えております。

自治体首長が強力な監督権を持つように設計された独立行政法人
制度を大学に適用することは大学の自律性を損う危険性を伴い、
そのようなことになれば、すでに発生している教官流出が象徴す
るように、教育と研究の諸活動の質の低下は不可避です。

この点を危惧して「地方独立行政法人法案」の国会審議の中で懸
念され以下の付帯決議がなされました:

公立大学法人の設立に関しては、地方公共団体による
定款の作成、総務大臣及び文部科学省の認可に際し、
憲法が保障する学問の自由と大学の自治を侵すことが
ないよう、大学の自主性、自律性を最大限発揮しうる
ための必要な措置を講ずること.

しかし懸念されていた通りのことが最悪の形で、法案可決後わず
か1ヶ月の昨年8 月に東京都で始まりました。東京都知事は大学
行政の経験のない人たちを大学管理本部に置き、4大学の公立大
学法人化の準備を大学関係者の大多数の関与を排除して、都の方
針に賛成する一部の教員と外部の「有識者」だけで、密室の中で
進めはじめたのです。これに対し、昨年8月以降、東京都立大学
長による声明をはじめとして都立大学内外からの百をこえる抗議
声明、公開質問状が出され、2月28日には、1800名を超える人
たちが、都の独断的大学改革を危惧し日比谷公会堂に集いました。

大学構成員の意向を無視し、行政の首長の好みのままに大学を細
工することは、一朝一夕には育たない大学をゼロから思いのまま
に一気呵成に作ろうというのは、大学が生きものであることを知
らない者がする愚行です。地方行政のこのような浅慮な暴走に歯
止めをかけることは地方議会の存在理由の一つではないでしょう
か。

以下の要望書、および、連署者からのメッセージ(抜粋)を、お
読みいただき、都にたいし大学と協議を十分行うよう指導しされ
ますようお願いいたします。

─目次───────────────────────────

【1】東京都議会への158大学界有志559名の要請書
http://poll.ac-net.org/1a/1poll-0.php

【1-1】連署者メッセージより

【2】有志所属の158大学リスト

【3】東京都議会と横浜市議会への大学界有志要請書
連署者名簿五十音順(3月18日現在564名)
http://poll.ac-net.org/1a/1poll-3-sandousha-f.php
#(ネット上では氏名を公表していない人も含む名簿を添付)

【4】東京都立大学名誉教授122名の声明 2004.3.18
http://www.shutoken-net.jp/web040317_5torishudai.html

【5】『朝日新聞』2004年3月16日付 声欄:失いたくない都立大の価値
 大学生 中川 光(東京都日野市 21歳)
http://www.shutoken-net.jp/web040317_4asahi.html
──────────────────────────────
#(以下抜粋)

【1-1】連署者メッセージより
全体:http://poll.ac-net.org/1a/1poll-5-iken-hyouji.php

[48] 私は、非営利・公共サービスの経営学を研究しています。サー
ビス経営学の最新の研究成果では、構成員の自発性をいかにひき
だすかが質の高いサービスを提供する上で不可欠の課題とされて
おり、そのためには実際にサービスを提供する現場への権限の委
譲が必要であるとされています。これは、民間のサービス企業の
成功事例から導かれた考え方であり、欧米で高く評価されている
サービス企業に共通しているものです。・・・・・・仮に大学を
サービス業として理解し、そのサービス水準を向上させようとす
るのであった場合でも、より教職員の自発性を高める努力が必要
であり、トップダウン的経営は逆効果であることを指摘しておき
たいと思います。(近藤 宏一・立命館大学・経営学部)

[47] 研究成果及び教育成果は、特定時間内で産み出されたり、結
果するものではない。研究者の創造保護環境のもとでたゆまず努
力した結果であり、また、教師と学生との相互関係あるいはそれ
ぞれの創意工夫によって成果が形成され開花するものである。

威嚇・脅迫・強圧・締め付けといった方法での「成果追求」は、一
夜花・見かけのもの・底の浅いもの・上辺だけのもの、となりやす
い。恐怖観念に追われて内容のない形式づくりに堕してしまう。

東京都立大学や横浜市立大学の実質解体方策は、奇をてらうもので、
教師集団が誠実に全力投球する意欲や姿勢を促すものではなく、まっ
たく逆の事態を招く無内容のもので、決して容認できるものではな
い。

もっと謙虚に、大学人の言い分に耳を傾けよ。大学改革は50年、
100年先を考えて内容づくりすべきもの。 

2004年2月19日 茨城大学 教授 田村武夫


[44]基礎科学の軽視は、回りまわって我が国の名誉を傷つけること
になります。行政の責任ある部署にある方には、教育・研究にお
いて守るべきこと発展させるべきことについて今一度考えていた
だきたいと思います。(高橋 英樹・北海道大学・総合博物館)

[39]大学は全国、果ては全世界から人の集う場所なので、市・都と
いう狭い範囲だけで拙速な判断をしないようにお願いします。世
界の笑いものにならないように。また、大学は学生のものですの
で、オトナの勝手なトップダウン判断は禁物です。学生(在校生
と、未来の学生を含めて)の意見を十分に聞いてください。
 (****・群馬大学・社会情報学部)


[1] 基礎研究を無視し,研究の効率や実利だけを求め,受験生に媚
びを売る大学を造れば造るほど日本の文化は頽廃し,将来を託すに
足る学生を輩出することは困難になろう。国や地方の税金を使って
運営する大学は,目先の評判や人気に左右されるものであってはな
らない。直ちに都立大学,横浜市立大学の新大学構想を白紙に戻し,
現教職員・学生との対話の中から大学改革が進められんことを求め
る。(山中章・三重大学・人文学部)

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【2】有志所属の151大学リスト

東京都立大学(35名),横浜市立大学(26名),北海道大学(24名),東
京大学(18名),岩手大学(16名),名古屋大学(15名),九州大学(14
名),神戸大学(11名),金沢大学(11名),筑波大学(10名),新潟大
学(10名),岐阜大学(9名),富山大学(9名),愛知教育大学(9名),
広島大学(9名),岡山大学(8名),京都大学(8名),東北大学(8名),
横浜国立大学(7名),琉球大学(7名),愛知県立大学(7名),信州大
学(6名),三重大学(6名),早稲田大学(6名),名古屋工業大学(6名),
高知大学(6名),法政大学(6名),大阪大学(6名),群馬大学(5名),
佐賀大学(5名),鹿児島大学(5名),茨城大学(5名),大阪市立大学
(5名),北海道教育大学(5名),千葉大学(5名),奈良女子大学(4名),
小樽商科大学(4名),東京農工大学(4名),東京工業大学(4名),関
東学院大学(4名),名古屋市立大学(4名),北九州市立大学(4名),
山形大学(4名),熊本大学(4名),静岡大学(4名),弘前大学(4名),
日本大学(4名),大阪教育大学(4名),奈良教育大学(4名),立命館
大学(4名),東京海洋大学(4名),明治大学(4名),札幌学院大学(3
名),大分大学(3名),一橋大学(3名),東京外国語大学(3名),福岡
大学(3名),お茶の水女子大学(3名),福井大学(3名),京都府立大
学(3名),東京学芸大学(3名),甲南大学(3名),福島大学(3名),長
崎大学(3名),山梨大学(3名),追手門学院大学(2名),長野大学(2
名),大阪府立大学(2名),福島県立医科大学(2名),埼玉学園大学
(2名),椙山女学園大学(2名),島根大学(2名),専修大学(2名),長
岡技術科学大学(2名),徳島大学(2名),山口大学(2名),香川大学
(2名),大東文化大学(2名),東洋大学(2名),鳥取大学(2名),中央
大学(2名),大阪外国語大学(2名),津田塾大学(2名),立教大学(2
名),電気通信大学(2名),北里大学(1名),創価大学(1名),宇都宮
大学(1名),國學院大學(1名),藤女子大学(1名),くらしき作陽大
学(1名),平安女学院大学(1名),啓明大学(1名),成蹊大学(1名),
浜松医科大学(1名),青森大学(1名),国際基督教大学(1名),東京
医科大学(1名),宮城学院女子大学(1名),和光大学(1名),羽衣国
際大学(1名),立正大学(1名),二松学舎大学(1名),相模女子大学
(1名),日本女子大学(1名),福井県立大学(1名),明治学院大学(1
名),札幌大学(1名),東京学芸大学名誉教授(1名),東海大学(1名),
埼玉工業大学(1名),武蔵大学(1名),秋田大学(1名),関西学院大
学(1名),東京都老人総合研究所(1名),成城大学(1名),明星大学
(1名),九州工業大学(1名),埼玉大学(1名),鶴見大学短期大学部
(1名),札幌医科大学(1名),中京女子大学(1名),埼玉短期大学(1
名),東京女子大(1名),帯広畜産大学(1名),千葉短期大学(1名),
京都教育大学(1名),北見工業大学(1名),明海大学(1名),大分工
業高等専門学校(1名),神奈川大学(1名),兵庫教育大学(1名),東
京工芸大学(1名),獨協大学(1名),東京芸術大学(1名),東邦大学
(1名),米国バージニア大学(1名),東京都立科学技術大学(1 名),
大正大学(1名),亜細亜大学(1名),三重短期大学(1名),龍谷大学
(1名),室蘭工業大学(1名),鳴門教育大学(1名),姫路工業大学(1
名),神田外語大学(1名),滋賀大学(1名),日本福祉大学(1 名),
東京薬科大学(1名)

━ AcNet Letter 80 【3】━━━━━━━━━━ 2004.03.23 ━━━━━

全体主義に警鐘 仏の寓話「茶色の朝」静かなブーム  
北海道新聞 2004/03/19 15:30
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/sch-kiji.php3?&query=%92%83%90F%82%CC%92%A9&dd=20040319&kiji=0031.200403195779
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4272600478

関連 AcNet Letter 記事:http://letter.ac-net.org/04/03/17-76.php#3-1
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「イラク開戦一年を前に、市民が全体主義に染まっていく姿を描い
たフランスの寓話(ぐうわ)「茶色の朝」(大月書店刊)が静かに
売れている。昨年十二月、自衛隊イラク派遣計画の閣議決定前後に
刊行され、間もなく五刷に。札幌の書店ではベストテン入りもした。
編集者は札幌出身の丸尾素子さん(36)。「今の日本と重なる。
ぜひ売りたい」という書店の後押しで注目を集めている。

・・・・・・

初版六千部を出した後、じわじわ売れ始め、刷りを重ねた。札幌市
北区の北大生協書籍部クラーク店は五十冊を入荷し、店内に平積み
する破格の扱い。同中央区の三省堂書店大丸札幌店でも五十冊以上
売れ、週間ベストテンに入るほどだ。

「原著が読まれたのと同じ状況が、今の日本にある。『茶色の朝』
を迎えないために、流されず、考え続けなければ」と高橋教授。四
十八ページ、千円。

───────────────────────────────
「茶色の朝」よりp14

「それから俺たちはテレビをつけた。
・・・・・・
どちらのチームが勝ったかもう覚えていないが、
すごく快適な時間だったし、すっかり安心していた。
まるで、街の流れに逆らわないでいさえすれば
安心が得られて、面倒にまきこまれることもなく、
生活も簡単になるかのようだった。
茶色に守られた安心、それも悪くない。」

━ AcNet Letter 80 【4】━━━━━━━━━━ 2004.03.23 ━━━━━

『「不自由」論ーー「何でも自己決定」の限界』より
仲正昌樹著、ちくま新書432、2003.9
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480061320/
───────────────────────────────

p40「こうした「同一性」の論理が、"自然と"圧倒的に強くなった
体制においては、人々は独自の判断を止めて、自発的に、つまり自
らの"自由意志"に基いて、「全体」の目的に「同調」するようにな
る。自分の利益を自分の責任で孤独に追究するよりも、(自分をそ
の一部として包んでくれる)「全体」の利益に合せた方が楽である。
このように、「個人の自由」と「体制への同調」がーー少なくとも
形のうえではーー両立するという意味で、「全体主義」は通常の独
裁体制とは異なるわけである。近代的な主体性を備えた人間にとっ
て最も本質的な価値である「自由」を自ら投げ捨てて、「全体」と
「同化」するように仕向けるからこそ、全体主義は危険なのであ
る。」

p41「多くのジャーナリスト・知識人たちは、数百万人のユダヤ人
を計画的に虐殺したアイヒマンを、「悪」の化身のようなものとし
てイメージしていた。ところが、実際に法廷に現われたアイヒマン
は、アーレントの目から見て、上からの命令を黙々とこなす、どこ
にでもいる平凡な役人でしかなった。・・・・・アーレントはむし
ろ、そういたアイヒマン的な平凡さ、個性のなさこそ、巨大な「悪」
を可能にしたのではないかと考えた。裏を返して言えば、平凡な我々
のほとんどすべてがアイヒマンになる可能性がある、ということだ。
「イェルサレムのアイヒマン」の副タイトルは「悪の陳腐さ」であ
る。

アイヒマンの分析を通して、アーレントが到達した「悪」の本質と
は、日常的な「陳腐さ」の中で、自分を考える能力を喪失していく
ことである。組織の中でルーティン的に決ったことをやるだけで、
他者に対して自分の意見を表明し、自らの個性を際立たせることを
怠っていれば、人は次第に「人間らしさ」、つまり他者の外的影響
から自由な志向を働かせられなくなる。そうなると、大いなる「全
体」へと同化する全体主義の罠に陥りやすくなる。いったん「全体」
へと同化してしまえば、自分(たち)以外の存在に対する関心がなく
なり、彼らが死のうと生きようと、どうでもよくなってしまう。・
・・・・・」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集発行人:辻下 徹 admin@letter.ac-net.org
ログ:http://letter.ac-net.org/log.php
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