トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク


『岩手日報』夕刊 2004年3月22日付

国立大学法人岩手大の針路

 国立大の法人化が4月に迫り、岩手大(平山健一学長)も国の機関から独立
した1法人として生まれ変わる。約850人の教職員は非公務員となり、業績
に応じて国から交付金が支給されるなど取り巻く環境は劇的に変化。学生への
教育サービス充実や地域貢献推進を柱に生き残りを懸けるが、手探りなのが現
状だ。未知の世界に挑む岩手大の課題を追う。

(1)教育サービスの充実

学生確保へ教員評価


 4月1日に89の国立大学法人が誕生。明治時代の帝国大学設立以来、国が
設置者としてけん引してきた高等教育機関が大きな転機を迎える。

 法人化後、文部科学省は各大学が提出した中期計画(6年間)の達成度に応
じて、運営交付金を配分する。大学は強化される学長のリーダーシップの下、
自らの責任で将来のビジョンを描き、資金の獲得競争をしなければならない。

 岩手大が計画の最優先課題に掲げたテーマは「学生に対する教育サービスの
充実」。全学部の教養教育を一括管理する大学教育センターを新設。バランス
のとれた総合的な判断力があり、地域に貢献できる人材育成を目指す。

 進藤浩一副学長(学務担当)は「教員は自分の研究だけに専念していればい
いという時代は終わった。大学全体の教育にまで責任を持つという意識を徹底
してもらう」と強調。学生に対する教育を教員評価の対象にして、給与体系に
も反映させたい考えだ。

 少子化が進む中、魅力のある授業を増やして学生確保につなげたい方針だが、
長い間、研究重視の環境にいた教員にとって、授業内容まで評価されることは
抵抗感が残る。

 身近な事例を挙げてのビジュアルな解説で、03年度の教養科目で人気ナン
バーワン授業に選ばれた人文社会科学部の松岡和生助教授(認知心理学)は
「ナンバーワン授業とされたが、正直戸惑いも感じた。心理学に興味のある学
生は多いが、人気のない学問領域もある。評価方法の確立や透明性の確保など
課題も多い」と語る。

 国立大教員は終身雇用が原則だったが、全国で80大学が「教員の流動性を
高める」として任期制導入や拡充を盛り込んだ。岩手大は、教員が60歳になっ
た時点で過去5年間の業績を点検し、以後の任用を検討することも視野に入れ
る。

 進藤副学長は「学部の専門性を考慮した全学共通の基準を設定する必要があ
る。学生の声が反映されるシステムにしたい」と教員の評価制度を推進する。

 一方、学生側は、法人化後の授業にそれほど高い期待は抱いていないようだ。
畠山亜子さん(人文社会科学部3年)は「型にはまらない授業は楽しいが、就
職に直結するとは思えない。後から役に立つことはあるはずなので、きちんと
受けるようにはしている」と現状を語っていた。

メ モ
 国立大学法人の運営形態 約12万3千人の教職員は非公務員となり、学長
を中心に理事、監事らで構成する「役員会」で運営方針を決定。委員の半数を
学外有識者が占める「経営協議会」、教育研究面を審議する「教育研究評議会」
を設置し、運営内容を審査する。