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新首都圏ネットワーク

福岡教育大学教員有志公開質問状


みなさま

 突然メールを差し上げる失礼をお許し下さい。私たちは、福岡教育大学の教
員有志です。

 いずれの国立大学も、法人化を目前にして、いろいろな課題に直面している
ものと思われます。福岡教育大学では、昨年からの法人移行プロセスにおいて
様々な問題が噴出し、これらが今もなお未解決のままとなっております。去る
2月20日には、教員有志により辞職要求声明が出される事態までに発展し、地元
のマスコミも、このニュースを取り上げました。私たち教員有志は、現在の状
況を打開し、大学運営を正常化するため、このたび、現福岡教育大学学長であ
り、文部科学大臣から法人化後の学長予定者としての指名を受けている松尾祐
作氏に対して、以下のような公開質問状を提出しました。

 福岡教育大学の抱える問題は、単に一地方国立大学の問題ではなく、多かれ
少なかれ国立大学全体に関わってくると思います。私たちは、法人化後もなお
「横並び意識」が抜けないであろう国立大学のなかにあって、福岡教育大学が
法人化の好ましからざる先例として他大学に悪影響を与えることを避けたいと
も考えております。

 国立大学を含む日本の大学全体のよりよい発展を期する見地から、みなさま
には、ぜひ私たちの立場をご理解いただくとともに、ご声援やご助言をいただ
きたく存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

                      福岡教育大学教員有志

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                      2004年3月19日
福岡教育大学学長 
 松尾祐作 殿


                         福岡教育大学教員有志

               公開質問状

      「福岡教育大学松尾祐作学長の大学運営について問う」

(1) 平成16年度人件費が4,400万円不足するという主張の根拠について
(2) 学長支持のための署名活動への学長の関与の有無とその活動に伴う人権侵害について
(3) 法人の諸規程と役員人事について
(4) 学内混乱の責任と学長辞職の時期について

 2004年4月1日の国立大学法人の発足まで秒読み段階となりました。しかしな
がら、福岡教育大学においては、いまだに法人移行後の大学運営に関わる重要
事項が大学構成員に示されていないという異常な状態となっています。

 松尾祐作学長は、本年1月8日に法人移行後の大学運営組織案を教授会に諮ら
ないという宣言をして以来、大学構成員への十分な説明もないまま、法人移行
準備を専決的に進めています。それに対して教員側から過半数の署名による教
授会開催要求がありましたが、学長はこれを無視し続け、ついには2月20日に教
員有志から学長の辞職を求める声明が出されるに至りました。

 学内では、この間の運営と法人化後の体制をめぐってさまざまな憶測が飛び
交っています。このような状況は、教育と研究の場として望ましいものではあ
りません。本来は正規の教授会において質問すべきところですが、それが拒否
される以上、今ここに公開質問という形で、大学運営の現在と将来にかかわる
疑問と疑惑を率直に提示します。風評としてささやかれているものにもあえて
言及していますが、学長の説明によって、これが杞憂に過ぎないことが明らか
になり、大学構成員の間にある不安と不信が払拭されることを願っています。

【質問1】平成16年度人件費として4,400万円が不足するという主張に正当な根
拠があるのでしょうか。また、それを研究費削減によって補填するお考えでしょ
うか。

(質問趣旨)この人件費不足という主張については、次に示すように、極めて
不透明な状況となっています。

1.文部科学省は定期昇給分の予算をつけていたにもかかわらず、本学のシミュ
レーションでは定期昇給分(後に定期昇給相当分と訂正)の4,400万円が不足する
ことになるということですが、その算定根拠は不明です。本当に16年度に
4,400万円が不足するのかさえ不明です。

2.文部科学省は非常勤講師分の予算をつけていたにもかかわらず、通常の手
続きを踏まえない学長裁定によって、4月以降の非常勤講師予算8,900万円を半
減して流用することで不足分を補填しようとしました。さらに、新聞でこれが
報道されるやいなや、先の見通しもないままに、この学長裁定を事実上撤回し
ました。

3.全学説明会において、会計課長からは、シミュレーションの結果であると
繰り返されるだけで、いくら要求しても算定プロセスも基礎資料もまったく示
されませんでした。不足の根拠が不明なまま、学長は、会計課長の「非常勤講
師予算削減が無理なら研究費で補填」という発言を容認し、さらに、自らは
「金のことはわからない」、「見切り発車だ」とさえ発言しました。

 200人に及ぶ非常勤講師については、すでに授業担当の内諾をもらった上に、
シラバスの作成まで依頼しており、時期的に見ても、一方的にこちらから断る
ことは社会通念上許されないものでした。また、現在のカリキュラムは非常勤
講師を前提として作成されており、突然の削減は、授業に深刻な影響が出ると
ころでした。

 さらに、全学説明会において、会計側から提示された16年度の教育・研究経
費は、15年度実績に比較して、大幅な減額となるのではという質問に対し、会
計課長はその可能性を認め、だから16年度の教育・研究経費の確保をどうする
かが大変なのだと返答しました。しかし、15年度実績の内示があった教育・研
究経費がなぜそのように大幅な減額となるのかを説明できる物件費間の配分基
準や算定根拠が示されず、この重大な問題もいまだ不明のままです。

 これらのことは、法人化後の本学のあり方が教育・研究を軽んじる危険性を
はらんでいることを示しています。

 本学は、公共性の高い国立大学であり、法人化後も予算の多くは国民の税金
で賄われます。したがって、その使途については、教職員や授業料納入者であ
る学生だけでなく、納税者である国民に対しても説明責任があります。巷では
警察組織の裏金づくりのニュースが流れていますが、当然国立大学も社会から
不信を招かないようきちんと情報公開する必要があります。根拠が不明な予算
について、事務局説明を鵜呑みにし、教育・研究経費削減を提案する学長の姿
勢は、社会に対しても不誠実であると言えます。

【質問2】2月20日〜28日頃に行われた学長を支持する署名には、学長も関与さ
れたのでしょうか。また、この署名集めの段階で人権上問題と考えられる動き
が、学内に数多くあったことを学長はご存知でしょうか。

(質問趣旨)2月20日に教官有志による「学長の辞職を要求する」旨の声明と相
前後して、学長を支持するための署名活動が展開されました。署名が個人の自
由意志によってなされるなら、それ自体に問題はありません。しかし、この学
長支持署名運動が展開されるなかで、おそらくは呼びかけ人の意図にも反して、
署名者の人権に関わる問題が数多く生じました。

 この署名活動において、学長を頂点とする大学上層部からの指示があったこ
とが明らかになっています。例えば、いくつかの附属学校においては学校長や
副校長が主導で署名集めが行われ、全員署名が達成されたところもあると聞き
ます。また、大学事務局では、管理職から事務職員ひとりひとりに署名が求め
られ、署名に応じなかった方はほとんどいませんでした。このように組織内の
上下関係を利用して署名をとることは、職権の濫用ですし、パワー・ハラスメ
ントと考えられます。一方、教員層に対しても、執行部やその周辺の教員によ
る署名集めがなされたと聞きます。人事や予算配分の最小単位である講座の中
で若手教官に圧力を加えたとしたら、それは人権を無視した行為であり、典型
的なアカデミック・ハラスメントと言えますが、こういったケースも少なから
ず存在したようです。

 さらに、この署名においては、趣意書の一瞥を許されただけで考える余裕を
与えられなかったことを圧力と感じた人もいたようです。

 このようにして集められた署名が、いくら数が多いとしても、本当に全学の
意見と言えるでしょうか。

【質問3】法人化のための役員会規程、教授会規程などの制定や、役員人事な
どの案件は、いつ教授会に提示されるのでしょうか。また、文部科学官僚であ
る事務局長を理事に登用されるつもりでしょうか。

(質問趣旨)学長は、法人移行準備の大半を専決的に進めており、これでは、
国立大学の私物化につながりかねません。特に見過ごせないのは、法人組織の
中核をなす役員会の人事であり、辻健介事務局長が理事に就任するとの観測が
ありますが、このことは、以下の点からみて容認しがたいことです。

 国立大学の事務局組織は、文部科学省から赴任する事務局長を頂点とするピ
ラミッド構造を呈しており、法人化後もこうした構造が温存されます。そのう
え文部科学官僚である事務局長が、学内理事が2名のみである本学において理事
としてその地位を占めれば、大学の教育研究への行政支配が強化されることに
なります。さらに、新たに別の局長が赴任して拡大役員会に入ることになり、
行政官僚の影響力は、過大なものとなります。

 辻事務局長は、法人移行準備において学長を前面に立てながら、その実、教
授会の長としての学長をミスリードしてきました。たとえば、法人化後の大学
運営の指針となる中期目標・計画素案の策定において、教員側の多数意見を無
視した官僚的トップダウンの手法で学長原案の作成に関与しました。こうして
作成された原案は、全学教授会で二度にわたり否決される一方、教員主体で作
成された案が全学教授会で可決され、文部科学省に提出されました。しかし、
辻事務局長は、その後の素案の具体化作業において、基本方針を廃案となった
学長原案の方向へ引き戻そうとしています。

 また、辻事務局長は、先にあげた非常勤講師予算半減や学長支持署名活動に
おいても、事務組織のトップとして主導的な役割を果たしています。事務局人
事も、自らの威光を示すためではないかと思わせるほど、適材適所の視点や時
機への配慮に欠けるものでした。昨春には、国立大学法人化を控え人事異動を
最小限にとどめて組織固めを図るべきところ、必然性のない大規模な異動が実
施されました。こうした辻事務局長が理事として使用者となれば、本学の労働
環境が劣悪化し、ひいては学生サービスの低下が懸念されます。現に、辻事務
局長の実質的な指揮のもとに策定された法人化後の就業規則案は、管理色が強
く、職員の勤務意欲を減退させ、とりわけ教員にとっては自由で創造的な教育
研究活動への取り組みや社会貢献の意欲を殺ぐおそれすらあります。

 以上の理由から、本学の教員と事務職員とのバランスのとれた協働態勢を確
立するためには、事務局長の理事登用は望ましくないと考えます。

【質問4】松尾祐作学長は、大学が現在異常事態に陥っていることの責任をど
う取られるのでしょうか。「任期を全うするつもりもない」と述べられました
が、いつ辞職されるつもりでしょうか。

(質問趣旨)福岡教育大学は単科大学であるため、教授会が評議会の役割を兼
ねており、大学運営に関する重要事項は、これまで教授会で審議してきました。
確かに、国立大学が法人化されると、学長の権限が強化され、そのリーダーシッ
プが求められることになります。しかし、こうした学長のリーダーシップは、
決して恣意的なものであってはなりません。ところが、松尾学長は、4月に本学
が法人化されれば、すべてが「リセット」されると発言し、恣意的にリーダー
シップを発揮することが出来ると曲解して、法人移行準備の重要事項に関して
説明責任を果たしていません。そのため、大学構成員の間に不安と不信が広がっ
ています。マスコミの取材に対して、文部科学省も、「法人化の趣旨は学長が
何でもできるということではない。学内のコンセンサスを得る努力は常に求め
られる」とコメントし、当惑をあらわにしています。

 昨年5月と9月の二度にわたって、法人化後の大学運営にかかわる中期目標・
中期計画(素案)の学長案が全学教授会で否決されました。9月の全学教授会後
に学内から辞職要求が出された際に、学長は、10月9日付の「法人化に向けての
今後の大学運営について」という文書で、「学長としての責任を回避するつも
りはない。法人化後の平成18年2月までの任期を全うするつもりもない」と述べ
ています。

 上記1〜3の質問趣旨で指摘しているように、現在大学は異常な状況に陥っ
ており、このまま松尾学長の運営が続けば、事態はますます悪化すると思われ
ます。