トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
新首都圏ネットワーク


『徳島新聞』社説 2004年3月10日付

国立大学法人化
教育研究で十分な成果を


 徳島大、鳴門教育大などを含め、全国八十九の国立大学の独立行政法人化が
三週間後に迫った。

 各大学では運営組織を整えるとともに、研究・教育の中期目標を策定するな
ど準備を進めてきたが、いよいよ本番を迎えることになる。

 大学は教育、研究機関であるとともに、真理を追究、文化を継承する機関と
もいえる。法人化を契機に各大学が独自性を発揮し、教育はもとより広く科学、
文化の発展に力を尽くしてほしい。

 大学法人化の狙いは、一つには行政改革、つまり行政のスリム化であり、も
う一つは、ぬるま湯体質に風穴を開けて教育、研究の活性化を促そうというも
のだ。肝心なことは教育、研究で十分な成果を挙げることである。

 法人化後、気掛かりなことは予算面で厳しい運営を余儀なくされることだ。
大学の予算は授業料や受験料などそれぞれの大学の収入と文部科学省から配分
される運営交付金で賄われることになるが、交付金の一部は二〇〇五年度から
毎年削減される見通しで、十年間で一割減額される予定という。

 運営交付金は、大学の研究達成目標などを「国立大学法人評価委員会」が評
価して決める。委員会は厳正、公平に判断し、交付金を決定しなければならな
い。大学の選別や地方大学を切り捨てるものであってはならない。

 各大学が独立採算制となるため、民間企業との共同研究で研究資金を導入す
る傾向も強くなっている。とはいえ、予算獲得が至上命題になり、そのために
は何でも許されるとする風潮が出るようでは困る。そこでは学問をする上での
一定のルールを重んじるべきであろう。

 工学、理学などの分野では、基礎研究は短期間で結果を出せないケースも多
く、企業が資金を出す可能性は低い。また、人文、社会科学分野でも企業との
共同研究は難しく、学外からの研究費の獲得の道は険しい。

 しかし、手をこまねいているわけにはいかない。研究者が積極的に情報交換
を行い、科学研究費やさまざまな研究費の獲得に努力することが欠かせない。

 昨年秋に各大学の研究、教育の「中期目標と中期計画」が発表されたが、徳
島大は基本的に現在の学部、大学院で取り組んでいる研究、教育を充実させる
方向だ。例えば、医学、歯学、薬学の三学部では健康や生命科学分野でこれま
での実績を生かして研究を深める目標を立てている。伝統を踏まえ、さらに研
究を進展させてほしい。

 鳴教大でも質の高い教員養成を目指し、教員への就職率を60%以上にする目
標を打ち出している。すべての教官が力を合わせ、目標が達成できるよう努力
してもらいたい。

 今後、地方大学が激しい競争の中で生き残るためには、何よりも地域社会の
理解と支援が不可欠だ。

 ここ数年、両大学とも社会人向け講座を精力的に開くなど「開かれた大学」
を目指している。その一方、教官が地域に出向き専門知識を生かして活動する
など、社会貢献を進めている。

 地域社会の支持があってこそ大学は存立できることを肝に銘じる必要がある。
法人化をうまく機能させるには、学長の強い指導力が求められることはいうま
でもない。