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新首都圏ネットワーク


『読売新聞』社説 2004年2月23日付

 [産学連携]「大学の研究を売り込む戦略作れ」


 大学は、国の予算を使い、何を研究してきたのか。

 国立大学の「法人」化を四月に控え、現状では、多くの大学が、そう問われ
かねない。

 大学の研究成果が、企業に売れないためだ。産業競争力を強化するため、国
は、大学の研究成果を民間に移転することを重点施策に掲げているが、十分な
実績が上がっていない。

 原因の一つとして、民間との橋渡し役となる、「技術移転機関(TLO)」
の力不足が指摘されている。

 TLOは、大学教官や卒業生たちが出資して設立した例が多い。学内で、売
れる技術を発掘、特許化して企業に売り込むことが業務の柱だ。一九九八年施
行の大学等技術移転促進法に基づき、全国で三十六機関が国に承認されている。

 経済産業省によると、同法施行から昨年末までに、全TLOで計約四千五百
件の特許を出願、うち約千件が企業に利用された。収入は約十二億円あった。

 だが、運営コストに見合う売り上げがあるのは、東大や電気通信大のTLO
など一部に過ぎない。TLOの三分の二は赤字か、国からの補助金があってやっ
と黒字になる、というのが現状だ。

 国は、各TLOの現状を把握し、評価し直す必要がある。技術移転を効率よ
く進めさせなくてはいけない。

 たとえば、設立母体とは別の複数の大学と連携する方策がある。多くの研究
成果を発掘できれば、企業の要望に応えやすい。さらに、地域の企業と大学の
共同研究を仲立ちする連携策もある。

 大学も、TLOとの連携を強化しなくてはならない。とりわけ法人化される
国立大の責務は重い。

 国立大では従来、研究者個人が研究成果を特許化する例が多かった。だが、
法人化後、特許は大学に帰属することになっており、有効活用が求められる。

 これを促すため、文部科学省は、大学内に、特許管理のための組織として知
的財産本部を設けさせる事業に今年度から着手し、約五十大学を支援している。

 だが、業務は、基本的にTLOと変わらない。どの研究を特許化するか、ど
う売り込むか。判断が食い違い、技術移転が滞りかねない、との声もある。

 TLOがない大学もあり、知財本部の意義はある。だが、知財本部は特許管
理に徹し、売り込みはTLOに任せる、など柔軟な連携が大切になる。

 日本は、ここ数年、科学技術研究に巨額の予算を投じてきた。その額は、毎
年三兆五、六千億円にのぼる。貴重な果実をどう社会に還元するか。大学は、
明確な戦略を持つ必要がある。