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新首都圏ネットワーク


『徳島新聞』2004年2月20日〜

連載 変わる国立大学

 徳島県内の徳島大学、鳴門教育大学など全国八十九の国立大学は、四月から
国立大学法人として新たなスタートを切る。国から独立し、これまでより自由
な運営ができる半面、各大学の予算は減少。民間の発想で独自の資金を調達し
なければ運営もままならない状況に追い込まれる。法人化は国立大にどんな変
革をもたらすのか。(社会部・高杉繁樹)=2003年2月20日から連載

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運営組織

示せるか存在意義 学長の権限を強化

 徳島大は昨年、文部科学省が公募した「二十一世紀COE(卓越した研究教
育拠点)」「特色ある教育支援プログラム」「地域貢献特別支援事業」など、
五事業すべてに採択された。

 「五つ取れたのは全国で徳島大と名古屋大だけ」と満足そうに語る青野敏博
学長。不採択になることを恐れず、学長ら幹部が学内の優れた点を積極的にア
ピールしたことが功を奏した。

 法人化後は、人事や予算面の国の規制は大幅に縮小され、学長の権限が強化
される。トップによる効率的な運営を進めるためだ。

 役員会制を導入

 そこで大幅に見直されるのが運営組織。徳島大、鳴教大ともこれまで、評議
会で大学の重要事項を決めていたが、今後は役員会に変わる。

 評議会のように各学部長は入らず、学長と理事で構成。徳島大の理事は総務、
研究、教育を担当する現在の副学長三人に、管理と経営の担当が加わる。鳴教
大は理事三人(一人は非常勤)。両大学とも理事の一人に学外者を起用する。

 学部や教授会の力が強く、学長権限が弱かった大学運営が、役員会制の導入
により、どこに力を入れ、無駄を省いていくかといった点で、学長のリーダー
シップが発揮できる仕組みになる。

 役員会とは別に経営協議会、教育研究評議会、学長選考会議を設置。学長は
これまで学内の教官による投票で決められていたが、法人化後は経営協議会と
教育研究評議会の代表でつくる学長選考会議で選ぶ。教育研究評議会の委員は
すべて学内の代表者だが、経営協議会は委員の半数以上に学外の有識者を起用
しなければならない。重要なポストに学外者を多数参画させることで、民間の
発想を取り入れた運営も期待される。

 冷ややかな目も

 しかし、こうした期待の一方、これまで閉鎖的で内情をあまり明らかにして
こなかった国立大の体質をとらえ、学内外には「急に変わるとは思えない」と
いう冷ややかな見方もある。

 両大学は昨年十月、法人化移行後六年間の基本的な運営指針となる中期目標・
中期計画の素案を公表した。内容は教育、研究、地域貢献など多岐にわたり、
各大学が目指す方向や具体的な数値目標を記している。

 発表に当たり、徳島大の渋谷雅之副学長は「このように大学の方針を社会に
説明したことはなかったのでは」と指摘。鳴教大の溝上泰学長は「数値目標を
公表することで、目標を達成する方策を教職員が真剣に考えるようになる」と
話した。

 中期目標・計画は、六年後に文科省の第三者機関「国立大学法人評価委員会」
によって、達成度や経営が評価される。評価結果や財務内容、教育研究情報も
公表される予定だ。

 これまで護送船団方式の横並びで安穏としてきた国立大が、法人化後は社会
の目にさらされ、評価される。両大学が生き残れるかどうかは、新たな運営組
織をうまく機能させ、大学の存在意義を国民に示せるかどうかにかかっている。

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経営

予算減の対応課題 補助金獲得へ競争激化

 東京の会計監査法人の職員が毎週、鳴門教育大に通っている。新しい会計規
定の策定作業を進めている会計担当職員にアドバイスするためだ。

 「会計の仕組みががらりと変わるので、入念に細部をチェックしなければ。
それにしても予算は厳しい」と三上智総務部長。新しい会計制度に対応するた
め、簿記の資格を取得する事務職員が増えているという。

 10年で1割削減

 これまでの国立大学の会計は、授業料などの大学の収入は、いったん国庫に
納入されたあと、大学の規模に応じて国が予算を配分。大学は収入の増減に影
響されず、毎年ほぼ一定の予算を確保できていた。

 しかし、法人化後は大学の収入は、国に納めない。運営費交付金と合わせて
大学運営の費用に回すことになる。収入が減ると減った分を何らかの方法で埋
め合わせしなければ、前年度と同じ運営ができなくなる。しかも交付金の一部
は、二〇〇五年度から毎年度1%ずつ減額される予定。十年間で一割がなくな
るという厳しい現実が待ち構えている。

 徳島大の黒田泰弘副学長は「無駄を省いて効率的な経営をしなければならな
いが、それだけでは追い付かないだろう」とみている。今後、予算の減額分を
どうやって埋めるかは、国立大学法人の大きな課題になる。

 文科省は、優れた研究や教育などに対する別枠の補助金を設けた。交付金を
年度ごとに1%減らす代わりとなる措置だ。頑張る大学には予算を出す仕組み
で、法人化によって大学間の競争が激しくなるといわれる理由の一つでもある。

 しかし、中四国唯一の教員養成を目的とした単科大学である鳴教大の立場は
厳しい。教育だけを扱っているため、文科省の公募事業に応募できる研究も限
られてくる。新技術の開発研究などを支援する二十一世紀COE(卓越した研
究教育拠点)制度などの対象にはなりにくいし、そのため企業などから外部資
金を得る方法もほとんどない。

 研究費は自分で

 新たな資金を確保するには、教官の優れた研究を対象にした科学研究費補助
金を狙うしかない。高橋啓次期学長は「すべての教官が科学研究費補助金を取
るつもりで積極的に応募し、自分の研究費は自分で稼ぐ意気込みが必要」と、
教職員の意識改革の重要性を訴える。

 徳島大が国から配分された来年度予算は三百二十五億円、鳴教大は約四十六
億円だった。大学の裁量に任されている授業料や入学金は、最大で5%引き上
げることができるが、これまでのところ改定の動きはない。

 国と地方の厳しい財政事情を受け、世の中は行革一色。地方自治体の地方交
付税も大幅に削減されている。国立大学改革は当初、「行革ではない」とされ
ていたが、予算は確実に削られ、その様相が強まってきた。国立大だけが特別
な存在ではいられなくなっている。

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教育研究

教官に成果求める 「金もうけ主義」に疑問も

 「金もうけの話ばかりが先行しているが、金もうけにつながらない研究はど
うなるのか」。一月発行の徳島大学報を前に、ある教授はためいきをついた。

 学報の巻頭には青野敏博学長の、昨年の自己評価と新年の抱負を掲載。文部
科学省に採択された五事業で計十億百万円の補助金を獲得したことなど、華々
しい実績が強調されている。徳島大にとって新たな研究費と産学共同研究によ
る外部資金獲得は、安定した経営を確保する上で重要だが、教官の中には金に
つながらない研究は将来、切り捨てられるのではないかと心配する人もいる。

 同大学の企業との共同研究は一九九八年度から急激に増え始め、同年度の三
十八件が二〇〇二年度には三倍の百二十三件に達した。企業からの受け入れ金
額も同様に、九八年度四千七百万円から〇二年度は二億六千万円に急増。歳入
全体の1・3%を占めるまでになった。

 ただ、共同研究に結びつく研究の多くは応用研究で、応用研究の土台となる
基礎研究は少ないという。

 業績審査導入へ

 渋谷雅之副学長(研究担当)は「基礎研究は国として重要と位置付けており
基礎、応用に限らず近い将来に国民に役立つものを発掘していく」という。
「近い将来」については「百年後に役立つというのでは近い将来でない」と説
明。今後、研究、教育、地域貢献などについて一定期間内での成果を教官に求
めていく方針で、二年後には教官の業績審査制度も導入する予定だ。

 成果を強調するのは「税金を使って大学がどんなことをしているか分からな
い」といった国民の批判を踏まえ、目に見える形で説明する必要があるからだ。

 しかし、基礎研究には長い年月がかかるケースが多い。研究したものの成果
が得られないといった場合もあるが、逆に基礎から大発明が生まれる可能性が
ある。

 ある医学部教官は「発明は狙って生み出せるものではない。特許を申請する
ことは簡単だが、お金になる特許がどれだけあるだろうか。なりふり構わず金
もうけだけを考えた改革は大学になじまない」と、大学の方針を疑問視する。

 危機感抱く文系

 人文、社会科学といった文系の教官が多い総合科学部は危機感を強める。熊
谷正憲学部長は「外部資金の獲得には限界があり、地域貢献や学内の教養教育
の充実などで存在感を示していかなければならない」と指摘。教官が頻繁に集
まって今後の方向を模索している。

 厳しい予算を背景に「研究、教育、地域貢献のいずれにも成果を出せない教
官は大学に残れない」といった話が広がり、学内には暗雲が立ち込めている。
確かに現状は厳しいが、重要なのは顧客である学生に夢と希望を与えられる大
学であるかどうかということではないだろうか。

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学長に聞く

 4月から新たなスタートを切る国立大学法人のかじ取りを担う徳島大学の青
野敏博学長と、鳴門教育大学の高橋啓次期学長に、法人化後の課題や抱負につ
いて聞いた。

世界的研究機関目指す 徳島大 青野敏博・学長

 −法人化はチャンスか危機か。

 青野学長 二つの側面がある。一つは、親方日の丸の時代は終わり、独立し
てやっていかなければならないし、国からの交付金も減らされるので大変な時
代。もう一つは、予算も人の配置も自由にできるので、大学の特色を出せると
いうメリットがある。

 −徳島大をどんな大学にしたいのか。

 学長 金太郎アメのようにどこを切っても同じという大学ではいけない。医
歯薬学系と工学・総合科学系の二つの大学院を中心に、生命科学や社会技術な
どの分野で世界レベルの教育研究機関として特色を出していきたい。

 −学長の権限が強化されるが、どうリーダーシップを発揮するか。

 学長 ワンマンなタイプのリーダーではいけない。教職員の意見をよく聞い
た上で決断し、決断したら短時間で実行に移すようにしたい。今までのように
平等な運営ではなく、よくやっているところを伸ばすことができればと思う。

 −大学間競争が激しくなるが、生き残ることはできるか。

 学長 これまで培われてきた教育研究と、それを担ってきた教官は大学の財
産。生き残るための底力は十分にある。ただ、従来のように安定が続くと思う
のは幻想で、一人ひとりが「変化は改革のチャンス」と、とらえる必要がある。

地域へのアピール重要 鳴門教育大 高橋啓・次期学長

−法人化をどうとらえているか。

 高橋次期学長 これまでは、研究室というたこつぼに閉じこもったままでも
やってこられたが、これからは予算が切り詰められ、受難の時代が始まるかも
しれない。教職員一人ひとりが目覚め、自律して道を切り開かなければならな
い。

 −教育系の単科大学としてどんな特色を出していくか。

 次期学長 教育は、国づくりにつながる重要な分野。花に例えれば土作りや
根作りにあたる。人間的魅力や指導力といった社会や学校現場が求める力量を
持った教師を育てていきたい。そのための優秀な人材はそろっている。日本の
教育は鳴教大が引っ張っていくという思いが大事だ。

 −二〇〇六年には学生の教員採用率を60%にする数値目標を立てているが、可能か。

 次期学長 教員採用対策の専門教官を置くなどして達成したい。法人化が落
ち着けば、教育大の統廃合問題も必然的に出てくると思う。そこで生き残るた
めにも、目標を立て、戦う姿勢でやっていかないといけない。

 −新しい大学に求められるものは。

 次期学長 これからは地域が大学をどう評価するかが重要。教官が自分の研
究について説明責任を果たすことも求められる。大学の優れた点をもっと地域
にアピールし、存在感を示したい。(おわり)