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新首都圏ネットワーク


『文部科学教育通信』2004年2月23日号 No.94

 「教育ななめ読み」41 「統合」の分析

 教育評論家 梨戸 茂史

 国立大学の法人化と並んで目玉だったのは「再編・統合」。文科省主導のも
といくつかの大学が統合したが、そのパターンを見ると、
一 地方大学と単科の医科大のいわば「当然」型
二 商船大学の近隣大学との合併「消滅免れ」型
三 近隣の大きな大学にくっつこうの「寄らば大樹」型
の三つがすでに成立。一は言うまでもなく大学紛争以後鳴り物入りで発足した
「新構想大学」の医科大が同一県内の国立大学と一緒になって(おおむね)そ
の県の「エリート」かつメインの大学になった。本来その地方大学に医学部を
作って済む話だったのを学生紛争を回避しながら、なんだか新しそうな運営方
式など取り入れた格好で、かつ一県一医科大をスローガンの下にできたもの。
統合するのもさほど違和感もなく結構ですね、でしょう。もっとも某医科大学
のように、いっそ既存の大学をまるごと医用工学など医大中心の内容に再編
(吸収合併?)しようとして張り切ったけど、ちょっと抵抗が多く無理だった
ようだ。完成したら実に意義ある面白いものになったでしょうね。外野だから
言えるけど。次の商船大の場合は、その目的だった船員養成が、放って置いた
らじり貧の状況の中、うまく小さくなって実質生き残りを画策できた訳で、こ
れはこれでお目出度いことだ。東と西で違いがあって、まず西の神戸商船はお
近くの神戸大と一緒になった当然の選択。東は画期的、水産大と統合「東京海
洋大学」が発足。唯一、短縮形で言うのが不便。東海大も東洋大も私学があっ
た。今頃みなさんどう言っているのでしょうね。ちょっと気になるところ。で
も「海洋」学なんか目新しそうで案外成功するかもしれない。おまけに神奈川
県は横須賀市で浦賀ドック跡に同大学を誘致しようという熱いエールがあった
とか。第三は、図書館情報大の筑波大と、九州芸工大が九大との統合の流れ。
小なりと言えどユニークな二つの大学だったが、将来の予算減を考えたらとて
もやっていけないのは歴然としていた。三つとも慶賀の至り。今のところ成功
ですね。

 一方、これからの統合の問題は二つある。ひとつは「県境を超えた」統合。
二つ目は「教員養成学部がらみ」の統合だ。

 前者の県境を超えた合併は難しい。自分の県に国立大学がなくなっては大変
の郷土意識は抜きがたい。いっそ県の境目に校舎を建ててそれぞれの県側に入
口をつけてどっちも正門とすれば解消するかも。ところで九州地区に前記以外
の話がないのは、強烈な郷土意識と方言が違い過ぎ意志疎通が難しいせいかも。

 後者の教員養成問題は、にっちもさっちもいかなくなることが多い。その例
が山形大学のケースだし、昨年破談?になった埼玉大と群馬大もこれがネック
だった。滋賀県と京都の四大学の話し合いも教育学部をどのようにまとめるか、
時間をかけての協議がなくてはなるまい。教員養成系の難しさは、ひとことで
言えば地域とのつながりが強いこと。地元からの進学、地元(教育界)への就
職。卒業して教員になっても現職教員の研修があり、学部の教官も教育関係の
委員会などに参加しており地元の教育委員会とのつながりも消えない。師範学
校以来の伝統もあるし他県で養成された教員がうちの県に就職するのかの感情
論だって無視しがたい。実は教員に限らず、地元の地域スポーツの指導員になっ
たり社会福祉関係の職や介護施設の職員になっている場合もある。おまけに、
これからの団塊世代の大量定年を控えて、今、養成枠をへらしにくい事情が出
てきた。どの学校も教員の高齢化が進んで運動会や修学旅行をこなせなくなっ
ているというのは大げさにしても、これからの大量採用は目の前だ。三〇人学
級だって視野に入れれば縮小・統合案はちとまずい。このあたりは、まず法人
化を先行させて「強力なリーダーシップ」を確立してから強引?に進めるのが
得策だ。ただし、急がないといけません。再選は無理だし辞めたら反故の約束
ですから。