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新首都圏ネットワーク


毎日教育メール 2004年2月23日付

 【レポート】「首都大学東京」混乱の背景
          トップダウンの改革、大学側は猛反発


 東京都が都立大などを廃止し、2005年に開校する「首都大学東京」をめ
ぐる混乱に拍車がかかっている。石原慎太郎知事がトップダウンで進める改革
は、教員や学生の猛反発を招き、学外からも抗議声明が相次いでいる。その背
景には、独立法人化を控えて大学経営の採算を重視したい都側と、構想づくり
から疎外された大学側の利害対立が見えてくる。混乱の背景を探った。

◇大学自治を度外視

 これまでの大学運営は一般的に「自治」を旗印に、教授会の権限が強かった。
特に国公立では、設置者である国や自治体は教育内容に口を出しにくい風潮が
あった。ところが、今回の都立新大学構想は、大学自治のルールを度外視して
進んだ。

 都側は当初、01年11月の「大学改革大綱」に基づき、4大学を統廃合し
て新しい大学を作るための準備委員会で、大学代表と話し合っていた。しかし、
昨年8月になって、準備委での議論を一方的に破棄し、「全く新しい大学を作
る」という新構想を発表した。

 茂木俊彦・都立大総長は「都は大学に何の相談もしなかった」と憤慨し、1
0月、都に手続きの不適切さを指摘し、設立準備のやり直しを求める声明を出
した。

 その後は、教職員側の反発は強まるばかり。1月21日に4大学の教員代表
が発表した同様の声明への賛同者は、4大学教員の57%に達した。同27日
には都立大の最高意思決定機関である評議会が新大学計画の見直しを求めた。
反発や疑問の声は他大学や外部団体にまで広がり、日本科学者会議や自由法曹
団を含め、都を批判する声明は約90に上っている。

 一方の石原知事は「紙爆弾投げたりなんかやったらしいけどね。自分の古さ
を露呈しているみたいなものだ。象牙の塔にこもっている」と意に介さない。
「反対しているのは本当にどうしようもない学者ばっかりだ」と切り捨てた。

 知事に近い都幹部の1人は「都立大は伝統的に左翼勢力の影響力が強いとい
われており、都の意向が届きにくかった。知事の本意は、都の行政目的に貢献
する新大学をつくることにある」と打ち明ける。

 新大学構想の成否は他大学からも注目されている。中央大(八王子市)で大
学改革を担当する古本耕三・教学企画本部長は「大学間の競争激化が予想され
る中、トップダウン改革が成功するのかどうか、全国の大学関係者が見守って
いる」と言う。

◇人件費見直し

 構想を進めるに当たって都が作成した「都立大学人文学部改革の必要性」と
題する資料がある。

 「上智大文学部25・1人」「千葉大文学部12・0人」……。他大学の文
学部の教員1人当たりの学生数が並ぶ。そのうえで、都立大人文学部(1人当
たり4・6人)を「経営的視点の著しい欠如」と結論づけた。教える学生が少
なく、ぜいたく過ぎるというわけだ。

 構想では、現在139人いる人文学部の教員は、64人と半分以下に削られ
る。日本文学、英文、仏文、独文などの専攻は姿を消す。

 これに対し、南雲智・人文学部長は「都の挙げる数字はわい曲されたデータ
で、不正な情報操作だ」と抗議する。語学など全学部向けの授業が圧倒的に多
いため、これらを加味すれば1人当たり9・9人になるという。

 新大学では、経営の健全化を図るため、教授陣のトップである学長のほかに、
経営を担う理事長が就任する。理事長に内定した高橋宏・郵船航空サービス相
談役は「都立大は人件費率が高く、経営者の観点からすると、常識では考えら
れない非効率がある」と、見直しの必要性を強調する。山口一久・大学管理本
部長も都議会で「大学の運営資金の多くは税負担。学生数、教員数のことをま
ず考えてほしい」と答弁し、法人化後の競争に対応することが第一とする姿勢
を崩していない。

◇学生「研究継続は困難に」

 学生や教員からは「研究を継続できなくなるのではないか」という不安の声
が出ている。

 都立大人文科学研究科博士課程3年(史学専攻)の高松百香さん(30)は
「国内有数の指導教員がいて、総合大学ならではの豊かな学問ができると信じ
ているからこそ、都立大で研究を続けている。都の都合で断ち切られたくない」
と訴える。

 新大学が掲げる使命には、「都市環境の向上」「ダイナミックな産業構造を
もつ高度な知的社会の構築」「活力ある長寿社会の実現」と、知事の所信表明
のような文言が並ぶ。小柴共一・理学研究科教授(生物科学)は「これは、行
政の目標だ。大学は、あくまで学問の研究を進めるところで、特定の終着点に
向かって進めるものではない」と不安をあらわにする。

 だが、教職員の中に石原改革を支持する声があるのも事実だ。学部長の1人
は「旧態依然とした大学のままでいいと考えている教員はごく一部。問題は改
革の進め方をめぐって生じた双方の行き違いだ」と語る。