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新首都圏ネットワーク


『日経地域情報』430号(2004年1月4日)

◆特集 独立行政法人化に向かう公立大学◆

 国立大学に続き、地方自治体が設置者である公立大学にも独立行政法人化の
波が押し寄せようとしている。2004年度から施行される地方独立行政法人法に
より、公立大学に法人化の道が開かれた。日経産業消費研究所の調べによると、
公立大学を設置している都道府県・政令指定都市のうち、すでに東京都など7自
治体が法人化を決定、34自治体が法人化を選択肢として検討している。自治体
財政が厳しさを増す中、法人化によってより効率的な経営に移行せざるを得な
い状況がうかがえる。組織面だけでなく教育内容の改革や地域貢献にも目を向
けているが、課題は少なくないようだ。

■7自治体が法人化を決定

 日経産業消費研究所が都道府県・政令市で公立大学を設置している46自治体
に対して昨年11月にアンケート調査をしたところ、すでに岩手県、秋田県、東
京都、大阪府、長崎県、横浜市、北九州市の7自治体が独立行政法人化のスケ
ジュールを決めていた。秋田県が2004年4月から国際教養大学(雄和町)を独
立行政法人として発足させるのに続き、残りの6自治体は2005年4月から既存
大学を独立行政法人に改組する。このうち、複数校の統合を伴うのは、東京都
と大阪府。東京都は東京都立大(八王子市)、都立科学技術大(日野市)、都
立保健科学大(荒川区)を統合、都立短期大(昭島市及び中央区)は廃止する。
大阪府は大阪府立大、大阪女子大(ともに堺市)、大阪府立看護大(羽曳野市)
を統合し、一つの独立行政法人で運営する。横浜市大は単独で法人化する。

■都道府県・政令市の9割が法人化を視野に

 法人化を前提に検討中なのが熊本県と名古屋市。法人化の是非を検討中とす
る自治体は全体の7割の34にのぼる。独法化を決定している自治体と合わせる
と、全体の93%が独法化を視野に入れている。自治体による直営を維持すると
回答したのは山梨県立看護大を設置している山梨県のみ。都道府県・政令市以
外が設置者となっている公立大学は11あるが、大学側に個別に調査したところ、
公立はこだて未来大(函館市)と青森公立大(青森市)が学内で「実施を前提
に検討」と回答した。青森公立大は学内の経営戦略室を中心に法人化の検討を
始めており、設置団体である青森地域広域事務組合(青森市など1市3町3村
で構成)との調整を並行して進めている。釧路公立大を除く他の8大学は「是
非を検討中」としている。

■学長と理事長を分離する新都立大、横浜市大

 国立大学の法人化と最も違う点は、大学の教学面を担当・統轄する学長と、
大学経営を見る理事長とを別々に設置できることだ。国立大学の場合、法人化
の議論の中で、学長と理事長を分離すべきという案も各方面から出ていたが、
法人化そのものに大学側の反発が強かったため、学長トップ主義を廃するまで
はいけなかったという事情がある。これに対し、公立大学は東京都など法人化
に熱心な自治体が分離を強く主張していたことから、分離が認められた。法律
上は、原則として理事長は学長を兼ねるとしているが、例外規定で学長を別に
定めることが可能になっている。新都立大と横浜市大は学長と理事長を分離す
る。

■険しい財務体質改善への道

 法人化しても事態はすぐによくなるわけではない。まず、法人化による財務
体質の改善の道は険しい。人員削減には大きな困難が伴いそうだ。東京都が都
立大などの教員数削減目標を出しているが、教員の大きな抵抗を招きつつある。
国立大でも統合方針を打ち出している埼玉大・群馬大や、秋田大・弘前大・岩
手大の場合などは大きな組織力を持つ教員養成学部関係者の反対が強く、統合
計画は頓挫している。設置自治体から大学への拠出額をどこまで抑えるかにつ
いても、議論は紛糾しそうだ。東京都や横浜市は2004年度中に決める方針だが、
都の場合は総学生数が増えることもあり、大幅な削減はしにくいと見られる。
2004年度に発足する秋田県の国際教養大でも、自主財源比率は24.9%。公立大
学協会がまとめた2002年度の公立大学財政状況に照らしてみると、全国75校の
うち40位程度のところに位置する。国立大学の場合、国から配分される予算の
総額を抑制する政府の方針が明らかになり、国立大学協会が猛反発している。