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新首都圏ネットワーク

『読売新聞』2004年1月12日付

NOと言われる新・都立大構想 人文学部縮小、経営感覚導入・・・都主導に
教員反旗


 東京都が四大学を統合して来年春に開校する新大学を巡り、教員側と都側の
対立が続いている。「トップダウン」で改革を進める都側の手法に、都立大を
中心にした現場が「NO」を突きつけているためだ。文部科学省に設置申請す
るタイムリミットが四月に迫っており、このままでは新大学のイメージダウン
にもつながりかねない雲行きになっている。(赤池泰斗)

 ■検討成果破棄された

 都が昨年八月に公表した新大学構想は、現在の四大学(都立大、同科学技術
大、同保健科学大、同短大)にある人文、法、理など七学部を、都市教養、都
市環境、システムデザイン、保健福祉の四学部に再編することなどを骨子とし
ている。

 これに真っ先に反発したのが都立大の人文学部だった。現在ある六学科十一
専攻が「社会学」「教育学・心理学」「国際文化」の三コースに“縮小”され、
専任教員数も大幅に減らされることになるためだ。

 茂木俊彦学長も十月、「大学に何の相談も無く、それまで積み重ねてきた検
討成果を一方的に破棄した」などとする異例の声明を発表した。

 その後も、教員や大学院生らの抗議声明や意見表明が相次いだほか、十一月
から十二月にかけては、今春開校する都立大の法科大学院(ロースクール)の
専任教員になる予定だった教授、助教授四人が相次いで退職届を提出、試験日
程の見直しを迫られる事態にまで発展した。

 都主導の改革に対し、現場の意見の“バロメーター”になる数字がある。都
は昨年九月、四大学の全教員(教授、助教授、講師)に対し、開校準備作業に
参加するかどうかの意思を確認するため、「同意書」を送付。これまでに同意
書を提出した教員は、全教員五百四十七人の約半数の二百六十六人にとどまっ
ている。

 科学技術、保健科学、短大の三大学は全教員が提出したが、都立大は三百八
十九人のうち百八人。特に、人文、理学部に至ってはゼロの状態だ。

 都大学管理本部の大村雅一参事は「同意書がなくても準備作業には参加でき
る。常に門戸を開放しており、より多くの教員から意見を聞こうという姿勢は
変わらない」と話す。

 しかし、改革の進め方が途中から変化したのも事実だ。新構想の発表直前ま
では、都が二〇〇一年十一月に策定した「大学改革大綱」に基づき、都立大の
教員を中心に、既存の学部ごとに授業科目の設計などが進められていた経緯が
ある。

 大村参事は、この点について、「当時の検討は、語学の授業を増やしたり、
専攻を細分化したりと、改革とは逆方向に進んでいた。八月の新構想は、改革
の原点に立ち返るもので『破棄』ではない」と説明する。

 ◆石原知事「批判は保身」 4月には国に設置申請

 ■代替案出したい

 都側は、今回の改革のもう一つの柱に「経営感覚の導入」を掲げ、学長とは
別に理事長を置くことにしている。四大学は毎年、支出の七割にあたる約百五
十億円を、都からの拠出金でまかなっている。都が外部に委託した監査でも、
「きめ細かい教育を行っているとしても、経営構造を抜本的に改善しなければ
ならない」と指摘された。

 都立大の南雲智人文学部長は「確かに経営改善は必要だが、都の方針はバラ
ンスを欠いている。人材流出を起こせば、大学が教育・研究の場として機能し
なくなり本末転倒。近く代替案を提示したい」と、対決姿勢を強める。

 一方、石原慎太郎知事は昨年末の定例会見で、「新構想に反対し、批判的な
人たちの主張は、現状の温存でしかない。保守、悪く言えば保身」と批判した。

 工学部二年の男子学生(19)は、「都、大学、学部、それぞれ立場が違う
のは分かるが、もう少し話し合ってほしい。このままでは、落ち着いて学生生
活を送れない」と不安そうだ。

 開校準備はスケジュール通りに進み、昨年末、文科省の事前申請もクリアし
た。現在、カリキュラムの詳細設計など詰めの段階に入っているが、混乱のし
わ寄せが、学生や受験生にも押し寄せかねない状況だ。