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新首都圏ネットワーク


『東京新聞』社説 2004年1月9日付


国立大法人化 やはり出だしが肝心

 国立大学が四月から法人化される。大学や文部科学省には、思い切った意識
の改革が求められる。何を変え、何を残すか。この二、三年で枠組みをかっち
りと築き上げ、確固たるレールを敷きたい。

 国立大学の法人化は、一八八六年の帝国大学令公布や一九四九年の新制国立
大学発足以来の大改革だ。いわば、これまで誰も経験したことのない未知の世
界へと突入する。それだけにスタートが肝心だ。

 出足でつまずく恐れがあるのは、大学にとっては、法人化で強化される学長
の権限に絡む問題だ。それまでの意思決定機関である教授会や評議会の権限と、
どう折り合いをつけるか。旧来のやり方を引きずったままで、学長の権限だけ
が増大すれば、紛争の種になりかねない。

 東京大は昨夏の評議会で、佐々木毅学長が法人化へ向けての所信を表明し、
学長のリーダーシップをより強化することで折り合いをつけた。

 折り合いがつかず、学長の辞意表明に至ったのが名古屋工業大だ。柳田博明
学長は法人化への所信を表明し、いったん信任されたものの、その後の教授会
で、大学運営の在り方について教授会による学内意見のくみ上げをせず、独断
専行の色が濃いなどの理由から、信任を取り消される事態に発展した。

 年明け後の学長選では、松井信行教授が次期学長に選ばれ、柳田現学長のトッ
プダウン路線を継承する、とあらためて宣言。意思の疎通にも力を注ぎたい、
と強調した。

 国立、公立、私立を問わず、大学の生命線は、学問の自由と学内自治だ。学
長のトップダウンと自治は、時として背反することもあるが、両立できないこ
とではない。教授会や評議会の意見をくんだ上で最終判断は学長がする、とい
う意思決定のルールを構築することだ。

 文部科学省にとっては、これまでも指摘してきた通り、公正な評価が法人化
成功の必須条件となる。評価の結果が各大学の運営費交付金の額に反映される、
とあってはなおさらだ。なれ合いや情実評価などで、法人化の初年度から大学
の現場に不満が鬱積(うっせき)するようでは、改革も絵に描いた餅(もち)
と化す。

 教育や研究の業績評価は難しい。客観性を少しでも高めるためには、同じ分
野の研究者に一人でも多く、評価に加わってもらう。そして、評価に至った過
程を学内外に公表する。これらの地道な作業を繰り返すことでしか公正さは保
たれない。

 国立大の法人化は大学、文科省の、思い切った意識改革が伴わない限り、成
功などおぼつかない。