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新首都圏ネットワーク


『科学新聞』2004年1月1日付

国大法人化、変革の年に

新春インタビュー

 ここ数年、研究者を取り巻く環境は大きく変化している。特に今年は、国立
大学の法人化というこれまでで最も大きな変化を迎えることになる。あまりに
大きな変化は、ひずみを生むのではないかという不安がアカデミアの中に強く
ある。そこで、今年の新春インタビューでは河村建夫・文部科学大臣に国立大
学法人化を中心にお話を伺った。

[かわむら・たけお]昭和17年11月10日生まれ、61歳。山口3区、当選5回。慶
応大学商学部卒業後、西部石油に入社。昭和51年に山口県議会議員に初当選、
連続四期務の後、平成2年衆議院初当選。自民党文教部会長や文部科学副大臣
など、当選以来、文教畑に打ち込み、教育改革には一家言を持つ自民党有数の
文教通。

大学の独自性活かすために国も財源措置などで支援

 ―国立大学の法人化によって基礎科学は衰退しないのでしょうか。

 河村 国会でもずいぶん議論があったのですが、国立大学が従来担ってきた
ものは、教育、学術研究や研究者養成であり、また各地域に大学を設置するこ
とで、それぞれ重要な役割を果たしてきたわけです。その部分を法人化によっ
て、むしろ強化しなくてはいけない。そういう意味で国はキチンとした財源措
置をする。同時に今度は大学独自の取り組みもおおいにやってもらおう。大学
間でもお互いに切磋琢磨して、地域性もしっかり出してもらおう。そうした大
学の使命のうち、基礎的な研究は非常に重要です。

 もちろん、各大学がどういう取り組みをするのかについては、これから中期
目標、それから評価で見ていきますけど、全国的に見て、基礎研究が後退しな
いようにするのは、国がキチンと見なくてはいけない。また、大学も法人化す
ると経営協議会や教育研究評議会などで、外部の人の意見を多く取り入れるの
で、おそらくそういう場で大学の使命とは何かということを議論すれば、やは
り基礎研究を中心にやっていくという方向が出るのではないでしょうか。

 その過程において、国が大学の取り組みを阻害するようなことがあってはな
らないので、大学の独自性を発揮するために、国がキチンと配慮しなくてはい
けないと思っています。

 ―国立学校特別会計には財政投融資の借入金が1兆円もありますが

 河村 これも非常に議論されたところなのですが、病院関係の借入金が1兆
円位あります。これは、独立行政法人国立大学財務・経営センター(4月から
現在の国立学校財務センターを独法化して発足する)を受け皿にします。これ
までも国立学校特別会計において、附属病院の整備については国が財投から借
りて、その分は附属病院の収入で返してきたんです。その機能を、国立大学財
務・経営センターが引き継ぐことになります。

 14年度で見ると、病院収入が5,890億円あり、借入金の償還額が1,032億円な
ので、収入比からいうと18%、仮に20%としても残りの80%は病院経費に充て
られる。大学の附属病院が黒字で悠々としているということはありませんが、
償還にはそれほど支障はないと思っています。足らない部分は国が運営費交付
金などでみていきます。

 ―法人化後、大学間の競争が激しくなるが、これまで全国共同利用型の附置
研究所が学術研究の進展に寄与してきました。共同利用と競争について。

 河村 法人化後は、競争的な環境で各大学が切磋琢磨することで、優れた成
果を出していくことが大切です。一方で、複数の異なる機関が共同で実施する
研究も大事だと思っています。

 こうした附置研で行うような学術研究は、一大学の枠の中にとどめておくの
ではなく、大型の装置を使って共同研究をしたり、資料やデータを共有したり
ということで進められています。切磋琢磨の中ではあるけれども、成果をあげ
るために共同で行うことは重要だと思っています。

 附置研については、関連の学会とか研究者のコミュニティがありますから、
そういうところからの要請に対しては各大学にキチンと対応してもらわなけれ
ばならない。そういうことについては、やはり文部科学省が全体を見て、そう
いう要請を受けなければならないと思っています。

 全国共同利用型の附置研については、学長のリーダーシップに加え、国も適
切に支援をしていかなければならない。予算については、科学技術・学術審議
会学術分科会報告「新たな国立大学法人制度における附置研究所及び研究施設
の在り方について」(15年4月)や日本学術会議要望「国立大学法人化と大学
附置共同利用研究所等のあり方について」(15年7月)でも取り上げられてお
りますし、参議院の附帯決議でも「短期的な評価を厳に戒めるとともに、財政
支出の充実に努めること」と指摘されているところです。

 こうしたことを踏まえて、16年度予算案において、各国立大学法人の運営費
交付金の中に全国共同利用に必要な経費を措置しています。一部で指摘されて
いるような外部利用者の締め出しにつながらないようにしていきたい。新しい
制度を入れると今まで考えられなかったようなことが起こりますから。今まで
の良い面は活かしていきたい。

 ―私立大学の振興について。

 河村 国立大学法人化によって競争が激化することは、私学も緊張感をもっ
て受け止めています。特に学術研究で頑張っている私学ですね。今、私学側か
ら求められているのは、国立大学が法人化したならば、公私の格差をなくして
くれという声が強いですね。

 私学助成をどう取り組んでいくのかは非常に大事です。一方では少子化が進
み、私学の経営も苦しくなっている。教育の機会均等という観点からも考えな
ければならないし、各国の状況を見ても私学に対する支援というのは大きい。
日本の場合は、独自の建学の精神を尊重しようということではありますけれど、
7割以上の学生が学んでいるわけですから、これを支援するのは国家としては
当然だと思っています。ただ、私学助成に対して財務当局は厳しいので、これ
を跳ね返していかないといけない。

 学校法人の見直しや運営の情報公開とか努力もしていただきながら、まずは
税制上の支援を充実していこうと思っています。これからの方向としては学生
の質、大学教育の質をいかに高めるかが重要になりますから、入り口よりも出
口の管理が大切になります。単に4年制大学を出るだけでいいというわけでは
なく、何を身に付けたかが問われるようになってきていると思います。

 ―宇宙開発について

 河村 H2Aの打ち上げ失敗は残念です。実は内々に外国からH2Aロケッ
トで打ち上げたいという話があったので、6度目の成功が後押しとなり、初め
て市場を開拓できると期待していたんです。ただ、ここでひるむわけにはいき
ません。原因究明をして、早く次の打ち上げをしなくてはいけない。

 アメリカも有人宇宙飛行を2度失敗しても頑張っていますから、日本もこう
した失敗にはめげずに着実に進めていきたいと思っています。