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国立大予算―角を矯めて牛を殺す愚


朝日新聞ニュース速報

 「はじめに経費削減ありきの財政当局的発想が幅を利かせている」。東大の佐
 々木毅学長が国立大学協会を代表して、先ごろ文部科学省に出した要望書には、
 そんな厳しい言葉が並んだ。国立大学の予算を減らすな。それが聞き入れられ
 なければ、学長を辞める。そんな覚悟である。

 来年4月から法人組織となる国立大学には、文科省から毎年運営のための交付
 金が配られる。初年度は今年度とほぼ同額とするが、次の05年度からは事務
 費などにあたる一般管理費は3%、教育研究費は1%ずつ毎年削減していく。
 財務省が文科省に対してそう提案したのが問題の発端だ。

 法人化後は大学組織が効率的に運営されるはずで、交付金の額を一律に縮小し
 ていくのは当然だ。財務省はそう主張する。

 文科省はこの提案をそのまま受け入れることには難色を示しているが、交付金
 の算定ルールについては、削減も含めて来月中に決めたいとしている。法人化
 の前にはっきりさせておく必要があるというのだ。

 交付金は大学予算の根幹をなす。将来にわたる削減を財務、文科両省の取引で
 いっきに決められそうな情勢に、大学側が危機感を持つのは無理もない。

 法人化された国立大学は、文科省がそれぞれについて中期目標を決める。6年
 間の実績評価に基づき、各大学の予算配分に差をつけるのも文科省だ。法人に
 なっても、文科省の強い規制が残る。

 だからこそ、法人化を承認した国会は、大学の教育研究の水準に十分に配慮し、
 必要な予算はこれまで以上につけるべきだという付帯決議をした。官僚の都合
 で大学の予算や活動が左右されてはならないからだ。財務、文科両省はそうい
 う国会の意思を余りに軽んじてはいないか。

 国際的な大競争を生き抜いていくうえで、基礎研究がいかに大事かは言うまで
 もない。それを担っているのが国立大学だ。すぐに成果が出ない分野にも安定
 した予算措置は欠かせない。特殊法人から移行した独立行政法人とは別の法人
 とするのも、そうした特質を重視したからだ。旧特殊法人が予算の一律削減を
 しているからといって、同じことを迫るのは無理がある。

 もちろん、大学側も反対を叫んでいるだけでは納税者の理解は得られない。学
 内に閉じこもって既得権にあぐらをかき、意識の改革を怠っていないか。国民
 の目は厳しい。効率的な運営で無駄をなくし、重要な教育研究は手厚く育てる。
 そうした努力をして、結果を公表する必要がある。

 各大学がみずからどう変わっていくかは、いずれ見えてくる。財政の窮状は分
 かるが、役所があわてて動くことはない。まずは大学側のお手並み拝見といこ
 う。
 せっかくの法人化なのに、予算や権限をめぐって大学が委縮してしまっては、
 肝心の教育研究活動を先細りさせかねない。角を矯(た)めて牛を殺す愚を思
 うべきだ。
[2003-12-29-00:05]