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新首都圏ネットワーク


<社説>来年度予算案 大衆迎合の復活を憂える


毎日新聞ニュース速報

 小泉純一郎首相のもとで3度目の予算案が24日閣議決定された。政権発足後
 これほど失望した予算案は見たことがない。石の上にも3年と言うのに改革は
 言葉ばかりが先行して自分で血を流さず霞が関官僚の上に乗っているだけだ。
  与党と各省庁など四方の調整に気配りさせる手法は断じて改革とは言わない。
 見た目ばかり改革の形を整えようという世論対策ばかりが鼻につくのは残念だ。

 その典型的な例は3年越しの道路公団改革である。「自民党の道路政治をやめ
 させる」との意気込みはもはやどこかに雲散霧消した。作家の猪瀬直樹氏にい
 いかげんかき回された揚げ句に、公団民営化推進委員会のコアである2人の改
 革派委員に抗議の辞表を突きつけられては小泉改革のシンボルが泣くだろう。
 私たちはそろそろ小泉改革の賞味期限が切れたと考えざるを得なくなっている。
 全精力をブッシュ氏とイラクに吸い取られたのだろうか。

 三つの改革に挑んだ来年度予算は惨澹(さんたん)たるものがある。いずれも
 第一歩を踏み出したというには程遠い。確かに抵抗勢力である「地方族」「年
 金族」「道路族」の力は自民党のなかでも強大だ。また公明党との連携は年金
 改革の矛先を鈍らせている。改革を安全網の強化と勘違いしているから困る。

 福祉の充実ばかりを叫んで全体の財政の視点をなおざりにしがちな風潮はかつ
 てのあしきポピュリズム(大衆迎合)を思わせる。

 国と地方の三位一体改革はいまや空中分解寸前である。総務省、地方自治体と
 地方族議員は三位一体となって補助金と交付税のカットに反対し、既得権の維
 持に懸命だ。地方分権は国と地方の財政の抜本的な見直しから始まる。地方の
 歳出増はここ10年ますます国のレベルを超えつつあるからだ。

 基本的に中央政府のバブル的なバラマキが地方のルーズな財政を招いた遠因で
 はある。補助金や交付税を餌に公共事業を地方に強要し、誘導するのだからあ
 きれる。いまでも中央官僚たちは自己の力の保持のためのシステムを忘れてい
 ないからなお困るのだ。

 日本全体が自己の利益にしか目を向けない風潮が進めば日本の財政運営は悲惨
 な状況になる。それをこの予算案が証明している。

 復活折衝などという大時代的なやり方も財政緊急時には疑問だ。

 例えば独立法人化した国立大学の補助金を削減する件は大学の抵抗でこの予算
 案では決めないことになった。既得権的な税金分捕り競争はアカデミズムの世
 界をも腐敗させたと言うべきだろう。 

 一事が万事これでは小泉首相の財政改革は万事休すだ。その結果04年度は国
 債を減らすどころか過去最高の額となった。それも特別会計とのやりくりでよ
 うやくこの程度に抑えた苦肉の数字だ。

 税金がなくては生きていけない人々の割合をもっと減らそう。

 そのためにはすることが多い。私たち国民は今までのように天井桟敷から予算
 劇を見下ろしている時ではないのだ。


[2003-12-25-00:58]