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『文部科学教育通信』2003年12月22日号 教育ななめ読み 37 教育評論家 梨戸 茂史 「裏のグランドデザインと評価いろいろ」 年末というと今年の十大ニュースなどというのをやりますね。一年を振り返っ て、平成十五年の高等教育関係最大のものは、「国立大学の法人化」でおおか たの意見は一致すると思う。 加えて関連の予算の削減が取りざたされてきたのも大きなニュース。財務省 が運営費交付金の性格を裁量的経費にしたいと打診したらしい。そのこと自体 は何ということもないのだろうが、この経費は毎年削減される性格となりそう だ。従来までの独立行政法人はすでにこの裁量的経費。夏の時点でこれに二% のシーリングがかけられており、その上効率化計数の一%も加わる?と心配噴 出。先月の国大協総会は大騒ぎになった。今まで法人化はこれからの大学、い や日本の高等教育を発展させ世界に互していく大学作りと言われてきたはずな のに一体どうしたことかとの批判。でもよく考えたらこの法人化の出発点は巷 間言われていた行財政改革なのだからこういう事態になるのは当然の帰結。来 年度直ちにとならないところも「ミソ」で実際の予算の削減は平成十七年度か ららしい。巧緻の極みの「仕掛け」(知恵者はいるものだ。一年たてばみな忘 れる)。現在の予算の一%がこれから五年間削減されたら小規模大学が毎年二〇 ほど消滅する額だし、全国立の工学部がいっぺんに半分なくなる計算だそうだ。 更に、シーリングの二%に効率化計数が一%の合計三%になったら三年半でマ イナス一〇%になるとの計算もある。かつて高等教育のグランドデザインがな いという批判もあったが、これは自動的な、市場原理で弱小大学が自然消滅に 向かうという裏の「グランドデザイン」な訳だ。 さて、かような流れの一環とおぼしき事象の一つが三菱総研と河合塾による 大学の「評価」。国内の理工系大学を産業界からのニーズへの貢献という観点 で評価した。今回の評価の分野はIT分野とバイオ。前者のうち「情報セキュリ ティ」関係では、A+の高い評価だったのは、(以下、学部学科まで絞っての評 価だが紙数の関係でそれを省いて紹介)東大、九大、横浜国立大、静岡大学の ほか、中央、慶應の私立二大学。「コンピューターハ−ドウエア」では京大、 阪大、東大、広大、鳥取、九大、筑波に慶應と早稲田。後者のうち「バイオマ テリアル」では京大、東大、東工大だし、「生物有機」の関係は、千葉、名古 屋、京大、富山医科薬科、京都薬科の各大学だった。この評価の基準に使われ た指標は論文発表数、研究費の獲得額、経営・起業関連の講座数、特許出願数、 大学発のベンチャー数、企業勤務経験教官数など合計二五項目。最上位五%を A+、次の五%をAなどとランクした。これは経済産業省が前記の二社に委託し て実施したもの。企業の財務状況やら信用度の調査がついに大学界までやって きたかのごとし。面白いのは各大学へのアンケート回収率が五〇%を下回った こと。大学がこの評価をどのように「評価」したかを表した指数じゃあないか と言いたくもなるけど・・・。 かくて、大学の「評価」は、「産業に役立つ大学」かどうか露骨な形で「評 価」が始まった訳だ。そのうち厚生労働省が「役立つ医学部と大学病院」や 「即有用な人材輩出の大学」。法務省が「犯罪者の少ない大学」などの評価を はじめるかもしれない。それでなくとも国立大学は評価だらけ。独立行政法人 法の流れの法人評価のほかに、学校教育法上の教育研究「評価」がある。さら に工学部であればJABEE(日本技術者教育認定機構)の評価。大学の六年間の中 期計画期間中には毎年の評価も求められる気配。みんな手探りで膨大な資料作 りに追われる。週刊誌や経済誌が会社に役立つ人材の大学など評価して特集を 組む世の中。新聞社系では本まで作って総合評価をしてくれているが、結果は 世間の評価と大差もなく伝統の強みは維持されていると思う。 今や、何でも評価だし、たくさんあればあるほど評価は埋没するから安心し ても良いかも。かくて今年も暮れる。来年は良い年になるかなあ。 |