【緊急分析】

運営費交付金、実際は年3%削減の危険:まやかしの文科省試算を分析する

2003年12月12日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

 

 

12月6日の国大協理事会、ならびに11日の国大協臨時総会において、文科省作成資料『国立大学法人予算に効率化係数が適用された場合の影響額(財務省案による仮試算)』(以下、『文科省試算』)という文書が配布された。この文書で文科省は運営費交付金算定ルールの変更(本事務局12月4日配信資料A〜D、6日配信資料E〜J参照)によって中期計画期間中に国立大学法人予算は全体で670億円の増額になると推計している。本事務局が、公表されている資料をもとに文科省試算を分析したところ、増額は甚だしく疑わしく、最大年3%にも及ぶ運営費交付金の削減が見込まれることが判明した。以下の文中にある資料A〜Jは12月4日配および6日に配信した資料を意味する。

 

I.『文科省試算』の読み方

 

『文科省試算』には注釈がついていないので、まず読み方を解説する。

 

1.これから決定されようとしている平成16年度(04年度)収支予算と新算定ルールによる平成17年度(05年度)収支の増減が示されている。左側のコラムは収入、右側は支出である。収入コラムのうち横線下の外部資金は受託研究費等国庫に納入されるものを指すのであろう。横の支出欄は外部資金に対応する事業費である。なお、支出は、文科―財務省が企図している新算定ルールによって区分されている。

(1)支出

・一般管理費、教育研究費に対する効率化係数がそれぞれ3%、1%であるので、削減額は30105135億円となる。

・特殊要因経費とプロジェクト経費等が1,400億円となっている。この特殊要因経費は主として退職金をさす。右側コラム最下部にある「5年間の増額(推計)」のプロジェクト経費等の額から推計すると、1,400億円の内訳は、特殊要因経費1,300億円とプロジェクト経費等100億円であろう。

(2)収入

病院収入に2%を乗じた値、119億円が収入のコラムに入れられている。

 

2.左側コラム最下部にある「5年間の効率化影響額」は、中期計画期間中の運営費交付金の減額分を示す。一般管理費が30×5150億円とならずに140億円となっているのは、毎年母数が3%減少するからである(以下5年間分の計算は他の場合も同様)。

 

3.右側コラム最下部にある「5年間の増額(推計)」は、中期計画期間中の収入増分の推計である。

 

II.『文科省試算』のまやかし

 

『文科省試算』では、新算定ルールに従えば、5年間で差引1,325億円−655億円=670億円の増になると説明されている。しかし、これには重大なまやかしがある。

 

1.収入のコラムに、病院収入に2%を乗じた値、119億円が入れられている。この2%については何の説明もないが、これが財務省の要求する経営係数(資料B)であることは疑いない(資料Cも参照)。この119億円は収入増ではなく運営費交付金の削減額を意味するのである(資料B)。従って、この119億円を「5年間の効率化影響額」に加えなければならない。

 

2.「5年間の増額(推計)」の項目とその推計額については非常に大きな問題がある。

1)外部資金の増額を年1%と想定していると思われるが、根拠が示されていない。

2)病院収入400億円の推計の根拠が全く示されていない。病院収入増が法人予算の増額(インセンティブ)となるのは、2%の経営係数分を減じた分のみである(つまり3%の増収があっても法人予算の増額は1%に過ぎない)。過去10年間の付属病院収支を冷静に見るならば、毎年1,000億円を越える借入金償還費(資料G)の支払いを義務づけられた付属病院が5年間で2%に加えてさらに400億円の増収を得ることなど不可能なのではないか。

3)内部留保350億円については、過去2年間の人事院勧告による給与減額分から推計したものである。運営費交付金が総額決定方式に移行し、人件費・物件費の区別を廃止したので、人事院勧告減額分が自由に使えるという論法である。しかしここには重大な問題がある。第1に、5年間人事院が給与引き下げ勧告を行うことを前提としているが、この前提自身が不当かつ不確定なものである。第2に、人事院の給与引き下げ勧告は消費者物価の低落と関係しているが、この消費者物価指数は運営費交付金算定の際に乗じられるのである(資料I)。従って、人事院勧告減額率が消費者物価指数下落分を上回った分のみ内部留保金が発生するのである。これらの点からみて、内部留保350億円を5年間の増額分として扱うのは根拠がない。

4)プロジェクト経費(資料Fの教育研究特別経費)を増額扱いとすべきかについてもかなり疑わしい。財務省資料(資料B)によればこれらの原資は財政調整係数1ならびに調整係数によって教育研究費から移転させたものであり、純増ではないとみるべきであろう。となると、これも増額項目から消えることとなる。

 

3.一般管理費については、定義がなされていないので1,000億円とした文科省の評価が適切かどうか判断できない。財務省は、「一般管理費は各大学法人の公認会計士が判断するものであり、それらを総計すれば2,0003,000億円になるのではないか」との見解を有していると伝えられている。そうであるとすると、一般管理費×効率化係数(3%)=6090億円となることも覚悟しておく必要があろう。

 

III.『文科省試算』の正確な読み方

 

1.IIの分析に基づけば、左右の最下部は下記のように書き換えられなければならない。

1)5年間の効率化係数影響額

一般管理費 140億円

教育研究費 515億円

病院収入 619億円

《計》1,274億円

2)5年間の増額(推計)

増額が確実なものは1つもない。

《計》0億円

 

2.運営費交付金の削減率

1)IIの分析結果から2005年度(平成17年度)における運営費交付金の削減率を計算すると、(30105119/10,000、すなわち2.54%となる。

2)一般管理費について財務省判断2,0003,000億円を採用すれば、運営費交付金削減は6090億円となる。これに伴い教育研究費運営費交付金の減額は9585億円とやや減少するが、結局総計274294億円に跳ね上がる。これは削減率2.742.94%を意味する。

3)入学料・授業料の学生納付金に対して1%の収入政策係数が企図されている(資料C)。入学料・授業料については運営費交付金に影響させる(資料I)としており、学生負担の増額とそれに連動する運営費交付金の削減が準備されているとみるべきであろう。2004年度の授業料等収入が3,433億円であるから1%の学生負担増はおよそ30億円の運営費交付金削減をもたらし、削減率をさらに0.3%引き上げる。

4)結局、財務―文科両省が準備している新算定ルールは、運営費交付金を年率で2.5から3%削減すること企図しているといえよう。