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新首都圏ネットワーク

東大研究科長・研究所長「国立大学協会の緊急要望に関する意見表明」


平成15年12月9日

国立大学協会の緊急要望に関する意見表明

今回の国大協理事会の緊急要望の内容は、私たちの抱いている危機感と軌を一にして
いる。

東京大学は、世界最高水準の教育・研究を維持・発展させることを目標とし、日本国
民と人類の未来に貢献したいと願い、各分野の指導的人材を養成しようとしている。
私たちは、今回の国大協理事会の姿勢を支持するとともに、政府に対して、日本の未
来を創る高等教育と学術・研究の条件整備に取り組むよう改めて訴えるものである。

大学制度の改革は、国の将来に甚大な影響を及ぼす大問題である。「教育立国」、
「人材立国」あるいは「科学技術立国」という国の根幹に関わる問題である。
周知のように、国立大学は来春4月より国立大学法人というまったく新しい運営組織
のもとで、再スタートを切る。国立大学法人法の成立は本年7月。わずか8ヶ月とい
う短期間の中で、明治以来の大変革を成し遂げなければならない。東京大学は、「学
問の自由に基づき、真理の探究と知の創造を求め、世界最高水準の教育・研究を維持
・発展させること」を基本目標として本学憲章に掲げている。この基本精神を、法人
化という高等教育制度の重大な変革を最大限に生かし実現するために、東京大学は周
到な準備を行ってきた。
しかしながら、いま来年度予算案の作成が急ピッチで進むなか、そもそも「国立大学
法人」とは、単に支出減らしの安易な便法とした発想ではなかったか、と疑わざるを
えない事態が生じている。
この法人化の目標は大学運営に対する省庁の瑣末な関与を極力排除して、大学の自律
性を高め、我が国の大学を国際競争に耐える一層質の高いものにするという点にあっ
たはずである。そして、国立大学法人の予算については、六年間の中期計画の達成度
と改革の実績を評価し、それに応じて資源配分を変えていくというのが共通の了解で
あり、そのために、既に、法律に基づいて国立大学法人評価委員会が発足している。
独立行政法人通則法と切り離し、国立大学法人法という独立の法律を作り、「教育研
究の特性への配慮義務」が定められたのもこうした精神に基づいていた。然るに、こ
の法人の出発さえ見極めがつかないうちに、将来の運営費交付金の一律削減計画が文
部科学省と財務省との間で練られている。予算案作成の技術的課題として、調整係数
を毎年設定できること、附属病院はほぼ独立採算制のもとにおかれること、など極め
て大きな影響を将来に潜めた案が作成され、平成17年度から実行に移されようとし
ているのである。
これは明白な約束違反であることはいうまでもない。その上、計画中の案が実施され
た場合、日本の高等教育、学術・科学技術研究の基盤の強化を図るという、国立大学
法人化の当初の目的とは全く異なる結果をもたらすことは確実である。むしろ、単に
政府の支出減らしのために国立大学法人法を作ったのではないかという当初からあっ
た批判が実証されることになるであろう。
日本経済・社会の将来設計の根幹にあるべき、学術の発展について、国家戦略も無
く、単なる予算の数あわせに堕し、学術の中身とは無関係に機械的に削減率を決め予
算配分を決めようとしている志の低さが問題なのである。
国民の税金をどのように有効に用いるかについては慎重かつ責任ある議論が必要なこ
とはいうまでもない。グランドデザインなしに、目先の官僚的技術論によって事柄を
処理するのは最悪の事態である。国立大学の費用の最終的負担者であり、またその活
動の受益者である国民が明確に理解できる形で国立大学予算のあり方を公開の場で議
論するべきである。時間的余裕がない中、そうした議論を行う余裕がないということ
なら、少なくとも、国立大学法人の発足後、17年度以降の予算のあり方について
は、17年度予算編成との関連で十分時間をかけて検討するべきである。

東京大学は、世界最高水準の教育・研究を維持・発展させることを目標とし、日本国
民と人類の未来に貢献したいと願い、各分野の指導的人材を養成しようとしている。
国は本学をはじめとする国立大学が、この使命を達成しようとしている努力を無にす
るのではなく、逆に日本の未来を創る高等教育と学術・研究の条件整備に取り組むべ
きである。

東京大学 大学院法学政治学研究科長   菅 野  和 夫
大学院医学系研究科長     廣 川  信 隆
大学院工学系研究科長     大 垣  眞一郎
大学院人文社会系研究科長   稲 上    毅
大学院理学系研究科長     岡 村  定 矩
大学院農学生命科学研究科長  會 田  勝 美
大学院経済学研究科長     神 野  直 彦
大学院総合文化研究科長    浅 島    誠
大学院教育学研究科長     渡 部    洋
大学院薬学系研究科長     桐 野    豊
大学院数理科学研究科長    薩 摩  順 吉
大学院新領域創成科学研究科長 河 野  通 方
大学院情報学環長       原 島    博
大学院情報理工学系研究科長  田 中  英 彦
医科学研究所長        山 本    雅
地震研究所長         山 下  輝 夫
東洋文化研究所長       田 中  明 彦
社会科学研究所長       仁 田  道 夫
社会情報研究所長       花 田  達 朗
生産技術研究所長       西 尾  茂 文
史料編さん所長        石 上  英 一
分子細胞生物学研究所長    宮 島    篤
宇宙線研究所長        吉 村  太 彦
物性研究所長         上 田  和 夫
海洋研究所長         小 池  勲 夫
先端科学技術研究センター長  南 谷    崇
大学総合教育研究センター長  岡 本  和 夫