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新首都圏ネットワーク

都立4大学の統廃問題に関する要望書

会長より会員のみなさまへ

 高橋和久でございます。本来ならば、このホームページの開設にあわせ
て、なんらかのご挨拶をすべきであったと存じます。学会のホームページ
とはそうしたものだというお叱りの声を何度か耳に致しました。それにも
かかわらず失礼を申し上げましたのは、ホームページは有効に活用してい
ただくことに意味があり、大会での経験から明らかなことですが、会長の
挨拶などはほぼ無意味、もしくはページの無駄であろうと考えたからにほ
かなりません。(ただし、ついでながらこの場を借りて申し上げますが、
毎年、全国大会の開会式では、開催校を代表する立場の先生方からご挨拶
を頂戴しており、開会式の壇上におりますと、いささか居心地の悪い思い
を致します。会場を提供してくださっている開催校に対する感謝の気持ち
の表れとして、次回の大阪大学の大会では、会長挨拶が終わるころを見計
らって、ぜひ多くの会員の方が開会式に参加してくださるようお願い申し
上げます。)
 それにもかかわらずここでまかり出ましたのは、東京都立大学をめぐる
状況に対して、本学会としてはおそらく前例のない「要望書」を、東京都、
文部科学省、日本学術会議に提出したことをご報告するためでございます。
アメリカ文学会、英語学会ともご相談申し上げ、共同の「要望書」となり
ました。会員のみなさまにはぜひご覧頂きたいと存じます。

                要望書

東京都知事     石原慎太郎 殿
文部科学大臣 河村 建夫 殿
日本学術会議会長  黒川  清 殿
                            2003年12月1日


           都立四大学の統廃合問題について


 このたび、都立の新大学構想が発表されましたが、英語文学、英語学の研究
者が集うわたくしども3学会は、これに対して大きな懸念を禁じえません。そ
れが人文学の教育・研究を軽視する日本社会の昨今の趨勢を助長すると思われ
るからです。具体的に申し上げれば、その構想に示された東京都立大学人文学
部の改編は、当学部が人文学の分野において果たしてきた学問的、社会的な役
割を考えますと、日本の人文学の未来に深刻な打撃を与えるものであるという
大きな不安を覚えます。
 もちろん学会は組織として自立しており、個々の大学と直接に結びつくもの
ではありません。しかしながら、わたくしどもの学会にはそれぞれ数千人の会
員がおりますが、その大半はすでに大学で教育研究に従事している教員であり、
残りの構成員も学術研究に専念している大学院生や学術振興会特別研究員であ
ります。したがいまして、大学の教育研究のありようには強い関心を抱かざる
を得ません。しかも東京都立大学人文学部英文学専攻は、これまでわたくしど
もの学会の中枢を担ってきた会員を多数擁し、英文学、並びに英語学の研究と
その成果の普及に努め、学会の内外で高い評価を得ているばかりでなく、これ
まで優れた研究者を多数養成してきております。この構想で示されました同専
攻の改編は、日本において長年の伝統を誇る英学の絶えざる革新に、少なから
ず寄与してきたと自負しておりますわたくしどもにとりまして、きわめて重大
な意味を持っておりますので、ここに要望書を提出する次第です。


 わたくしどもは最近の東京都立大学をめぐる動きについて次のように理解し
ております。

 都立の四大学(東京都立大学、都立科学技術大学、都立保健科学大学、都立
短期大学)は平成17年度(2005年度)に発足予定の都立新大学設立に向け、本
年7月31日まで一年以上にわたり、東京都が平成13年11月に発表した『東京都
大学改革大綱』に沿って、都の「大学管理本部」と協議を重ねながら詳細な改
革案をまとめてきた。8月1日、石原慎太郎東京都知事は記者会見の席で、そ
れまでの協議に基づく改革案とは別の「都立の新しい大学の構想」(「新構想」)
を発表した。「新構想」は「大学管理本部」のもとに新たに設置された「新大
学設立本部」主導のもとにある。


 このように推移している新大学の準備体制について、わたくしどもは次のよ
うに考えます。

1. 都立大学総長の、「『同意書』についての都立大学総長意見」(9月29日
付)および「声明 新大学設立準備体制の速やかな再構築を求める」(10月7
日付)にもあるように、都による「新構想」は、設置者権限を逸脱したもので
ある。専門的学問研究と教育が、重要な社会的機能を担っていることは言うま
でもなく、わたしたち専門的研究者集団は、この機能を果たすべく社会から信
託を受け、したがってまたこの信託に応える責務を社会に対して負っている。
そのために専門的研究者集団は、自らを律する自由を与えられ、また自らを律
する責務を担うものであると言うべきである。大学の自治、学問の自由という
観念は、大学が有する社会からの相対的な自由とその社会的責務が表裏一体の
関係にあることを表現したものに他ならず、専門的研究者集団がやがてその成
果を社会に還元するために必須のものであると考えられる。この点で、当事者
である大学構成員が準備した詳細な改革案を破棄したまま、大学の組織が改編
されることは、学会として首肯しがたい。これによって、一大学の伝統と蓄積
のみならず、教育・研究を根幹とする大学の社会的な責務と機能が脅かされて
いると考えられるからである。

2.「新構想」においては、教養教育においても大きな役割を果たす人文系の教
員が大幅に削減され、とりわけ英文学専攻を含む文学科の各専攻(国文学専攻、
中国文学専攻、英文学専攻、独文学専攻、仏文学専攻)はすべて廃止される計
画であると聞く。この英文学専攻が廃止されることになれば、日本の英語文学、
英語学研究にとって大きな損失というだけに留まらない。それは人文学基礎研
究の甚だしい軽視につながり、やがては日本の文化基盤の衰弱につながるもの
であり、誠に遺憾であると言わざるを得ない。

3. さらに、そしてきわめて重要なことだが、文学科の各専攻が一気に廃止さ
れ、学部教育・大学院教育を担当してきた教員の大多数が教育研究の足場を失
うとするなら、これら各専攻に学ぶ学生・院生が、現在の学習研究条件を実質
的に喪失することが強く懸念される。これは文学科の各専攻が担う学問の学習
と研究を通じて、健全な社会の一員たろうと志向している学生・院生の権利を
奪うことになろう。とりわけ大学院生は、すでにその多くが学会に属して、と
もに研究活動を行うわたしたちの同僚であるだけに、彼/彼女らがその学習と
研究の権利を脅かされることは、学会として看過することのできない事態であ
る。


 わたくしども3学会は、以上の点について遺憾の意と深い危惧の念を表明し、
広く開かれた協議の場で都立四大学の改革案が再検討されるよう強く要請する
とともに、関係各位の速やかな対応を心から望む次第です。

                         (財)日本英文学会
                           会長 高橋 和久


                          日本アメリカ文学会
                           会長 平石 貴樹


                          日本英語学会
                           会長 中島 平三