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『朝日新聞』2003年11月26日付 ◆直言 「地球」の連携研究を守れ 東京大学 地震研究所長 山下 輝夫 19日付の科学面では、来年4月の大学法人化で心配される共同利用研究所の 将来を取り上げていた。東大地震研究所もその一つで、地球科学の研究を全国 の科学者と連携して進めている。比較的規模の大きな野外観測や観測データの 共有が欠かせない分野である。 所内には、地震予知と火山噴火予知の二つの研究協議会があり、各地の国立 大の研究者たちと協力して研究計画を立て、実行してきた。このような研究の ネットワークがあってはじめて、地球で起こっている現象の真相に迫ることが できる。 法人化で期待されているのは、「競争的原理」のもとで「個性豊かな大学」 へと変わることだ。しかし、地球科学のような基礎研究には、「競争」だけで はなく「協力」が不可欠だ。 法人化後は各大学が個別に評価され、予算配分に反映される。大学の枠を超 えた連携研究が評価されなくなれば、協力体制は崩壊の危機に瀕する。また、 地球科学には10年以上の継続観測が必要な分野も多く、6年ごとに評価する中 期計画に縛られるのも気がかりだ。 12日に開かれた国立大学協会総会の国立大学法人運営費交付金に関する議論 では、政府内で交付金を毎年定率で削減する方針が検討されている、という話 がでた。 もしこのような方針が決まれば、法人化後の国立大学の財政基盤そのものが 大きく揺らぐ。私たちのような大学内外の連携で基礎研究を進める組織にとっ ては、死活問題にもなりかねない。 大学評価にあたっては、全国の連携研究や長期継続が必要な研究に対して十 分に配慮してほしい。さらに、大学を横断して共同研究を進めるための制度的、 財政的な枠組みを望みたい。 <筆者>専門は数理地震学。震源が破壊していく過程などを研究。 |