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新首都圏ネットワーク


運営費交付金問題の本質と危機打開の緊急行動

2003年11月22日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

一、運営費交付金の削減問題の発端は、財務省が本年7月29日の経済財政諮問会議に2005年度予算の概算
要求基準(シーリング)の枠組を示したことである。ここでは、政策判断で予算額が増減する「裁量的経費」
に対して、前年度比で2%減とすることとされている。国立大学法人法第7条は、国が国立大学法人に出資
「できる」という条文がはめ込まれており、財務省の主張によれば、これは義務的経費ではなく裁量的経
費ということになる。このまま事態が推移すれば、2005年度以降、運営費交付金には0.98の係数を掛け続
けるという状況に突入する。

二、文科省は、これまでの国立大学特別会計を引き継ぐ2004年度運営費交付金を義務的経費とみなして
2004年度概算要求を準備していた。これは、人件費イコール義務的経費という基準が存在すると信じて、
一般会計からの繰入金の9割を占める人件費を義務的経費とみなしていたためと言われる。ところが、上
記の決定が出るや文科省はその扱いを変え、財務省の方針に従って裁量的経費に切り換えたのである。こ
の切り換えの経過は依然として"藪の中"であるが、高等教育局が国大協との協議はおろか省内の意思統一
さえ行わず、財務省の方針で動いたとも伝えられている。実際、文科省内で事態の深刻さが広く認識され
るようになったのは10月下旬からであり、国大協執行部がその重大性に気付いたのも同時期である。11
月12日の国立大学学長懇談会(国大協総会後に開催)で、遠藤高等教育局長が、運営費交付金が裁量的経
費であることは初めからわかっていたと強弁したのは、こうした秘かな切り換えを隠したかったからであ
ろう。その一方、彼は、国立大学法人に対する運営費交付金を義務的経費として認定する(あるいは義務
的経費として位置付ける)ことを求めるとも発言しているが、このような経過をみれば彼の論法が財務省
によって歯牙にもかけられないのは明白である。

三、財務省は、標準運営費交付金の割合を増やし、可能な限り学生数による運営費交付金の算定の方向に
持っていきたいと考えている。つまり、運営費交付金が、増える可能性のない数値(学生数)をもとに算出
できるからである。その第一歩として、特定運営費交付金を「特定の中の特定」の項と「附属病院」の項
に区分しようとしているが、高等教育局はこの財務省案を既に飲んだようである。高等教育局が同意した
のは、運営費交付金の内訳が現在全国平均でおおよそ標準4に対して特定6となっており、文科省による大
学統制だと他省庁に批判されていることを回避できるという姑息な理由からであろう。第二歩として、
「附属病院」の項をさらに、教育研究と診療に分割することが提起されている。こうすれば、財務省とし
ては診療部門に独立採算制を導入することが容易になるからである。だがこれが大学付属病院の崩壊を招
くことは火を見るより明らかではないか。そして、文科省による、病院を持つ大学と持たない大学、整備
済の病院と未整備の病院、病院と他部局、などの間の離間策(divide and rule)を通じて、大学全体の瓦
解の導火線に火をつけることとなろう。

四、効率化係数については、特定運営費交付金のうち物件費にのみかけることになっていたが、物件費と
人件費の区別が廃止されたこともあって、適用範囲拡大の可能性が一挙に高まった。運営費交付金全体に
対して1%を越える効率化係数がかけられる危険が現実に存在する。これは、運営費交付金が、シーリン
グ2%+効率化係数1%以上が2005年度から毎年削減される、つまり、0.97をかけ続けるという無限級数状
況に突入することを意味する。まさに、大学財政は崩壊の危機に立たされているのである。

五、我々が国立大学法人法案に反対する闘争のなかで繰り返し指摘したことが、大学財政崩壊という形で
現実化しようとしている。すべての国立大学は、今こそ高等教育予算を構成する国立大学法人運営費交付
金が社会の健全な発展にとって不可欠の義務的経費であるという視点に立脚し、大学財政の強化とその運
営の自主性獲得を堂々と主張しなければならない。文科省は、その視点を失って個々の事態に姑息に対処
しようとしている。こうした路線とはきっぱりと決別しなければならない。国大協は、最低限11月12日の
総会決議に沿う行動に全力で取り組まねばならない。さもなければ国立大学は財政の崩壊を通じて瓦解に
至るであろう。

六、事態は文字通り緊迫している。我々は全国の大学関係者に対して次の具体的行動を提起したい。

(1)国会に対して:今回の事態は、国会における国立大学法人法案審議過程を無視したものであり、さら
に附帯決議にも明白に反する。衆参両院に対して、行政府が作り出した異常な事態を国政調査権に基づき
調査し、それを解決するために必要な措置をとらせる行動を強化しよう。

(2)財務省・文科省に対して:現在、財務省・文科省が準備している運営費交付金の算出ルール(2005年度
から適用)を直ちに公開させ、国立大学との合意なき算出ルールを作らせないための行動を展開しよう。

(3)政府に対して:上記の算出ルールは2004年度概算要求書に添付され、12月末までに閣議決定される危
険がある。国立大学との合意のない算出ルールを閣議決定させない行動を進めよう。

(4)社会に対して:各大学が文部科学省に提出した「中期目標」素案等の前提が崩れたことを社会に対し
て強くアピールすることが必要である。「中期目標」素案の凍結、撤回等も当然検討されるべきであろう。