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新首都圏ネットワーク


読売新聞ニュース速報

社説[留学生10万人]「安易な受け入れは見直す時だ」

 あらゆる面で国際化が、ますます加速する時代である。しかし、そのマイナス
 面にも目を向ける必要がある。

 国内の留学生数が十万人を超え、国の「留学生受け入れ十万人計画」の目標を
 突破した。

 国際交流の促進を目的として、一九八三年に策定された計画である。当時、国
 内の留学生は一万人に過ぎなかった。

 留学生の受け入れは、相手国との懸け橋となる人材を育成することで、安定し
 た国際関係を築く基礎となる。大学の教育、研究の活性化にもつながる。計画
 の達成自体は、高く評価すべきだろう。

 だが、学習意欲と学力に乏しく、アルバイトに明け暮れる留学生の増加も指摘
 されている。犯罪に走る者もいる。

 山形県の短大で二年前、多数の中国人留学生がアルバイトのため首都圏に移住
 していたことが発覚した。最近では、中国人の元留学生によるとされる福岡市
 の一家四人殺害事件もあった。

 留学生の出身国は、中国が64・7%を占め、他を大きく引き離している。

 中国では、最近の経済発展で進学熱が高く、留学先として日本が注目されてい
 る。ビザ取得が容易でアルバイトもできるため、「学歴と収入」の両方を目指
 す留学生も少なくない。

 一方、日本では、少子化で定員割れとなった私大に、安易な留学生受け入れで
 急場をしのごうとする傾向もある。

 国際交流の理想が不法就労の増加を招きつつある現実を軽視できない。留学生
 対策の抜本的な見直しが不可欠だ。

 留学生の学力判定のため、昨年から、文部科学省の外郭団体による「日本留学
 試験」がアジア各国で実施されている。だが、中国では実施されていない。試
 験の受け入れを、中国側に強く申し入れるべきである。

 チェック機能を充実しても、大学が安易な受け入れ姿勢を改めないと、効果は
 ない。入学許可、教育・研究の指導、住居などの生活面の支援、在籍管理など、
 すべての面にわたって、大学側の厳格な留学生対策が求められる。

 入学した留学生の在籍率が際立って悪い大学に対しては、文科省が補助金減額
 などの制裁措置をとることも、一つの考え方だろう。

 多くの留学生は、生活費の高い日本で苦労しながら、まじめに学んでいる。一
 部留学生の不法就労を放置すると、留学生全体に対する誤解も生みかねないこ
 とを、関係者は強く認識すべきだ。

 留学生の「量」に関する計画は、ようやく達成された。これからは、「質」の
 向上に、力を注ぐべき時である。

[2003-11-17-01:40]