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『山陰中央新報社説』2003年10月20日付

国立大学法人化/島大の個性をどう打ち出すか


 来年四月から国立大学が法人化されるのに伴い、どんな大学を目指すのか−。
文部科学省が全国の国立大学に提出を求めていた中期目標・中期計画が各大学
から公表された。

 少子化で大学は冬の時代を迎えている。私立大学では定員割れを起こすとこ
ろが相次ぎ、入学試験で関門らしい関門もないまま合格できるバリアフリーの
大学も増えている。大学生の学力低下も著しい。

 国立大学の場合、「国立」という看板が世間の評価を下支えする担保の役割
を果たし、一部の私大のような底無しのバリアフリー化を食い止めている。

 しかし法人化によって「国立」という安定装置が揺らいでいる。国が直接管
理する従来の国立大学から独立した法人格を持つ組織に生まれ変わる。

 民間企業のように経営の側面が強くなる一方で、研究や教育への評価などを
通じた大学間の競争にさらされる。一言で言えば、国立大学にも自己責任を求
める市場原理が導入される。

 そうした中で島根大学はどうあるべきか。大学間の競争に生き残っていくた
めには、何より大学としての個性が求められている。同時に地域から必要とさ
れる大学でなければならない。

 地域をよりどころとしながら、個性ある研究や教育で存在感を打ち出してい
く。そうした島大の将来像を追求してほしい。

 島大が文科省に提出した中期目標・計画では、法人移行後六年間の組織運営、
研究、教育などにわたる指針や具体的計画を示している。

 学内運営では学長のリーダーシップを強化し、これまでの下から合意形成を
積み重ねるボトムアップ方式からトップダウンの方向を強める。教官に緊張感
を持って研究などに当たらせるため、任期制の導入も検討する。 

 研究面では島根医科大学と統合した成果を生かし、医学と工学などを融合し
た学際研究を充実させる。その際、重点的な研究分野を設定して期限付きで予
算を重点配分するなど成果重視型を目指す。

 その場合、大切なことは大学としての個性をどう打ち出すかである。中期計
画では具体的な重点研究分野について今後の課題としているが、ぜひ個性的な
研究で成果を上げてほしい。

 島大の個性を伸ばす研究分野について本田雄一学長は「地域に貢献できる分
野を掘り下げていきたい」としている。その上で▽過疎・高齢化に対応した地
域医療と中山間地振興▽中海・宍道湖を生かした汽水域研究▽古代出雲研究−
などを候補に挙げている。

 文科省は、研究や教育を通じた大学の格付けを進めている。昨年から今年に
かけて実施されたCOE(卓越した研究拠点)や「特色ある大学教育支援プロ
グラム」の採択事業を通じて大学の実力を明らかにしようとしている。

 島大の場合、どちらにも採択されず涙をのんだ。世界的に通用する研究に補
助金を支給するCOEでは、鳥取大学の乾燥地科学が採択された。砂丘地農業
をルーツとする鳥大固有の研究が評価されたためである。

 ナンバーワンになれなくてもオンリーワンに大学の存在意義を見いだす。地
域のニーズを満たしながら、山陰ならではの「知の拠点」を島大は目指してほ
しい。