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新首都圏ネットワーク

Academia e-Network Letter No 6 (2003.10.09 Thur )
http://letter.ac-net.org/03/10/09-6.php

━┫AcNet Letter 6 目次┣━━━━━━━━━ 2003.10.9 ━━━━

【1】 豊島氏から毎日新聞への公開質問状
Subject: 名古屋工業大の記事について質問

【2】朝日10.8「都立大総長の抗議声明に石原知事反論「学長は古い」」
http://www.asahi.com/national/update/1008/026.html
について

【3】成嶋隆氏「国立大学法人法と教育基本法「改正」問題」2003.09.27
(新潟大学法学部/日本教育法学会会員 )
http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/znet/news/multisympo927.html

 【3-1】・−2 学外者の関与と学問の自由・大学の自治 −「開かれた大学」?


【4】新刊「大学の復権ー市井の人々に支えられる科学と高等教育の再興」  
竹田保正著 学会出版センター 2003.10.1 ISBN 4-7622-3018-9, 1600円
http://www.jssp.co.jp/f_gen_sci/daigaku_fukken.html

【5】Publicity 745 (2003.10.9) より
#(讀賣新聞10/6「法人化で東大はどう変わる 佐々木学長に聞く」
についてのコメント)
  http://www.emaga.com/bn/?2003100025705361015573.7777

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━ AcNet Letter 6 【1】━━━━━━━━━━ 2003.10.09 ━━━━━

豊島氏から毎日新聞への公開質問状
To: edu-koe@mbx.mainichi.co.jp
Subject: 名古屋工業大の記事について質問
Date: Thu, 9 Oct 2003

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| 佐賀大学理工学部の豊島耕一ともうします.毎日教育メール10月
| 8日の次の記事について質問します.

| 【大学】“強権”学長に教官ら反発 名古屋工業大
| http://www.mainichi.co.jp/life/kyoiku/edumail/archive/04/200310/08-07.html

| 「双方の対立は『泥仕合』の様相だ」とありますが,これは,双方
| のやり方がともに汚いという表現です.それでは,たとえば「名工
| 大を救う会」と職員組合のやりかたがどのように汚いのでしょうか.
| 具体的に指摘して下さい.たとえば公費支出の不透明さを追及する
| ことは汚いことなのでしょうか?

| 佐賀大学理工学部 豊島耕一


━ AcNet Letter 6 【2】━━━━━━━━━━ 2003.10.09 ━━━━━

都立大総長の抗議声明に石原知事反論「学長は古い」
asahi.com 2003.10.8
http://www.asahi.com/national/update/1008/026.html

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#(反論の内容は定かではないが、記事によれば『「学
長というのは古い人が多い」「現状維持では何も変わら
ない」などと反論した』そうだが、これでは反論にはなっ
ていない。なお、「今度は素晴らしい学長を据えます
よ。」とも言われたそうだが、公立大学については、こ
のようなことをするとは教育公務員特例法では違法であ
る。「学長を行政の意のままに据える」ことが、地方独
立行政法人大学については違法ではなくなったことは、
地方独立行政法人法の最大の欠陥の一つであろう。

しかし、それ以前に、公立大学である都立大学の意に反
してこれを廃止することは、都の財政破産等の、のっぴ
きならない事情がない限ぎり「新しい大学を作るという
選挙公約を果すために」などというような首長の都合だ
けではできないように、戦後は、教育基本法を核として、
教育関連の法体系が整備されているのである【3】。)


━ AcNet Letter 6 【3】━━━━━━━━━━ 2003.10.09 ━━━━━

「国立大学法人法と教育基本法「改正」問題」2003.09.27
成嶋 隆(新潟大学法学部/日本教育法学会会員 )
http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/znet/news/multisympo927.html
シンポジウム「大学界の真の改革を求めて」セッション3/報告2

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目次:

・ 国立大学法人法(以下、法人法)の主要な問題点

・ 教育「改革」における高等教育・科学技術「改革」の位置

・ 教育基本法(以下、教基法)「改正」への突破口としての法人法
1 法人法と教基法との緊張
(1)教基法10条との緊張
(2)教基法6条2項との緊張
(3)教基法3条1項との緊張
2 学外者の関与と学問の自由・大学の自治 −「開かれた大学」?
3 「基本法 −基本計画」スキームの先取り
4 立法手法の違憲・違法性

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【3-1】・−2 学外者の関与と学問の自由・大学の自治 −「開かれた大学」?

■ 「『法人法案』にあっては、業績評価の場面のみならず、役員
会・経営協議会・学長選考会議の構成の面でも、学外者の大幅な関
与が予定されている。このことが、教基法10条の『自主性』『直接
責任性』原理や、憲法23条の『学問の自由』の保障(およびこれを
制度的に担保する『大学の自治』の保障)との関連で問題となりう
る。なぜなら、学外者の関与の背景には、グローバリゼーションの
もとで日本企業の国際競争力を高めるために大学の産み出す知的財
産を産業活性化のために動員するという戦略があり、それ自体、大
学における教育研究に対する外圧をなし、『学問の自由』や『自主
性』原理と緊張関係にあるからである。しかし他方、学外者の関与
やいわゆる《産学官協同路線》は、表向きは《国民に開かれた大学》
《大学の地域貢献》というまっとうな謳い文句を伴っており、その
限りで先の『直接責任』の法理と親和的にみえる。これをどう考え
るか。

右の問題については、次のような整理が可能である。 −大学は、
国民の高等教育を受ける権利を保障し、またそこでの研究の成果を
社会に還元して人類の平和と福祉の向上に貢献するという責務を担
う。そして、その責務を十分に果たすことができるために学問の自
由と大学の自治が保障されている。ところで、大学がその責務を果
たす筋道、つまり大学が社会の要請や国民の信託に応える筋道は、
教育と研究とでは若干の違いがある。教育については、大学が、そ
の教員らによる教育作用により大学生の教育要求に応えることをと
おして、国民に対する責任が果たされる。ここでは、先の『直接責
任』の法理が妥当する。これに対し、大学における学問研究と社会
や国民の信託・要求との関連は異なった筋道をとる。つまり、大学
における学問研究が社会や国民の信託・要求に応えるといっても、
それは学問研究が社会や国民の要求に即自的に対応すべきものでは
ない、ということである。

学問の自由に関する論文のなかで、高柳信一は、この点につき次の
ように論じている。 −『専門的職能は、すべての職能と同様に、
結局において、社会に奉仕すべきものであるが、その奉仕は、物的
価値の生産・提供のばあいのように、顧客(ないしその総体として
の社会)の具体的指揮命令のもとにではなく、まさにみずからの専
門的知識にもとづく精神的創造力の発揮によって −自由に −行わ
れなければならない。』(高柳「学問の自由と大学の自治」)

この指摘にあるとおり、大学における学問研究は、産業界の主とし
て経営者サイドからの注文や特定政府の体制的利益に基づく要請に
ストレートに応ずべきではない。学問研究に関して大学と社会との
間には、ある種の緊張関係がなければならないのである。なぜなら、
学問研究は現在の真理や体制的理念を疑い、より高次の知見を獲得
する精神作用であり、本質的に体制超越的機能を営むものだからで
ある。

神戸女学院大教授・内田樹は、このことを次のようにきわめて平明
な表現で語っている。 −『大学の社会的機能の一つはその時代の
支配的な価値観とずれていることだと私は思う。…その『ずれ』の
うちに社会を活性化し、豊かにする可能性がひそんでいる…。

『市場にすぐ反応して、注文通りの人材を提供する大学』なんか、
私が受験生なら御免こうむりたいけれど。』(「大学の『市場』主
義とは?」朝日新聞03.01.16)」 (成嶋・前掲世界論文234-235頁)


━ AcNet Letter 6 【4】━━━━━━━━━━ 2003.10.09 ━━━━━

新刊「大学の復権ー市井の人々に支えられる科学と高等教育の再興」  
竹田保正著 学会出版センター 2003.10.1 ISBN 4-7622-3018-9, 1600円
http://www.jssp.co.jp/f_gen_sci/daigaku_fukken.html

関連書 竹田保正 著「内なる大学改革」
http://www.jssp.co.jp/f_gen_sci/daigaku_kaikaku.html

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まえがき
序章

第1章 現状報告
 §1 「国立大学の独立行政法人化」の問題にかんする,
理系大学人や教育ジャーナリストなど知識人の発言
  1) 黒木比呂史 氏---「大学改革」私はこう思う
  2) 「国立大学独立行政法人化の問題週報」への投書より

 §2 最近の理科離れの問題と,日本で定着している「理科教育」の歴史的省察
  1) 小平邦彦「怠け数学者の記」より
  2) 明治初期の先進的な科学教育
  3) 1879年-1881年にかけて,「科学」教育から
「理科」教育への転換が行われた根拠は何か?

 §3 大学人による「内なる大学改革」を阻んでいる要因
---同族による“内輪”,“世間”的構造,
人事の流動性の欠如,国立大学-旧帝大系と地方大学,
私立大学間の研究,教育の格差

 §4 大学の窓際からみた日本の大学
  1) 理科系大学の講座制
  2) 教員の流動性
  3) 研究費の配分(略)
  4) 改革私案

 §5 文部科学省の場当たり的な科学行政,
教育行政はどれも長期的な展望がなく,無定見,無責任
  1) 文部科学省が出してきた「大学改革プラン」を批判する
  2) 佐藤 学 氏「崩壊しつづける教育 国立大のリストラが標的に」
  3) 高野ゆう子 氏「学力向上施策と無免許教員の氾濫」

 §6 依然として貧困なる国立大学のインフラストラクチャー
  1) 学術審議会 学術体制特別委員会 の第16期第2回の議事録より
  2) 日本学術会議が行った国立大学の研究者(文系,理系,工学,医学,
薬学まで全分野)に対するアンケート調査した結果に基づく報告資料
  3) 「大学を問う---荒廃する現場からの報告」
  4) 文部科学省,科学技術・学術政策局調査調整課の資料
「我が国の研究活動の実態に関する調査報告」
  5) 国立大学のインフラの未整備,研究,教育の支援体制の貧困,要因の不足
  6) スイス,チューリッヒにある連邦工科大学(ETH)物理学科の充実した
インフラストラクチャーの紹介

 §7 すぐれたリーダー,ハイタレントを輩出する高等教育のシステムを
再構築することなくして,大学のレベルアップはありえない

第2章 国際的な市場経済化の流れに巻き込まれている大学の復権
---高等教育をどのように再構築するか?
 §1 大学は高等教育機関,研究機関であると同時に,
学術,文化遺産の保護,継承という役割を持っている
 §2 大学の本質,根源的価値にかかわる問題提起
 §3 高等教育をどのように再構築するかの未来展望

第3章 巨大科学の価値を問う---巨大科学と我々人間の“日常的世界”の関係
 §1 核融合研究のその後
---長年,構築された「科学技術」の研究体制は壊せないか?
  1) 小柴昌俊 東京大学名誉教授の意見
  2) 香山 晃 京都大学教授の反論
  3) 著者 竹田の意見
 §2 巨大科学---宇宙科学,素粒子,高エネルギー物理学をどう見るか?
 §3 “Particle Physics and Our Everyday World”
(素粒子物理学と我々の日常的世界)
  1) 対称性の破れ,少数粒子の系
  2) Emergence and deduction
  3) Autonomous layer
  4) クオークと生命

第4章 欧米の大学人,研究者,知識人が,いま日本の大学人に訴えていること
  1) オックスフォード大学教授 リチャード・ゴンブリッジ 氏の
国立大学の独立行政法人化に反対する大学人に寄せたメッセージ
  2) ウィリアム・カリー 上智大学学長「大学人が人類社会に貢献しうるもの」
  3) 熊澤慶伯(現在は名古屋大学理学部地球惑星科学科)
「日本の大学に変革の必要性」
  4) オックスフォード大学総長 コーリン・ルーカス教授の
東京大学卒業式における祝辞より

第5章 著者の緊急発言「戦後教育を徹底検証せよ」
  1) 教育は行政,生徒,教師の連携で
  2) 戦後教育の失敗と時代錯誤
  3) 日本は本当に「豊かな国」だったのか?
  4) 市民,民衆に対する知識人,大学人の裏切り
  5) 文部科学省の政策を検証せよ
  6) 科学をどのように再構築するか? の未来展望

あとがき
引用索引
索引(人名,事項)


━ AcNet Letter 6 【5】━━━━━━━━━━ 2003.10.09 ━━━━━

Publicity 745 (2003.10.9) より
http://www.emaga.com/bn/?2003100025705361015573.7777
登録:http://www.emaga.com/info/7777.html

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#(讀賣新聞10/6「法人化で東大はどう変わる 佐々木学長に聞く」
についてのコメント部分)

|▼10月6日付の夕刊讀賣新聞10面で、「法人化で東大はど
|う変わる 佐々木学長に聞く」という記事が載っていた(泉田
|友紀記者)。

|見出しは、「若手育成を大きな柱に」「産学連携、学術政策で
|も貢献」。

|「法人化とは、大学に自己責任を求めることだ。これまでの大
|学は、補助金漬けの自治体みたいなもの。資源を有効に管理・
|活用する手段を持たなかった。自己決定権を持ち、『何をやる
|か』を明確に打ち出せるようになったのは大きい」

|記事には、「目下の懸案は「会社をゼロから立ち上げるような
|もの」と表現する中枢機関の基盤整備」という一文もあった。

|「資源」とか「管理・活用」とか、会社などの経営を連想する
|用語が散りばめられているところに違和感を覚える。

|記事の末尾は、「経済の立て直しは、大学教育の立て直しから
|と言われて久しい。新しい大学作りが社会にどのような変化を
|もたらすか。東大の取り組みは一つの指針となるはずだから、
|国に直言し続けてきた政治学者の、学長としての手腕が注目さ
|れる」と結ばれている。

|東大の取り組みは、たしかに他大学の一つの指針となるかも知
|れないが、「なるはず」などと決めつけるのは、この記者の思
|い込みなのではないか。「自己責任が強まるんだろ?」と皮肉
|を言いたくなる。

|佐々木学長が「国に直言し続けてきた政治学者」である、とい
|う表現も、国民の多くがその「直言」の内容を知っていれば通
|用するが、これだけでは、何のことやらわからんちんである。

|また、その「直言」で、何か国の政策が変化した事例があるの
|か、勉強不足のぼくは知らない。

|上の記事内容と、野田正彰氏『背後にある思考』(みすず書房
|)の次の一文と、鮮やかな対照を示していると思うがいかに。

|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
| 国立大学法人化という詐術
| 
| 
| 大学は何のためにあるのか。
| 
| 国際化がさらに進むなか、競争に勝つため、技術革新の中心で
| なければならない、という主張がある。否、それならば技術研
| 究所を造ればよい。
| 
| 医師、法律家、技術者などの専門家を効率よく育成するために
| ある、という主張がある。否、それならば高等専門学校の方が
| 効率的であろう。
| 
| 工業社会から情報社会へ移行した今、大衆の高等教育への欲求
| に応えるためにある、という主張がある。それでは高等教育と
| は何か。すでに知識として整理されたことを上手に伝えること
| が高等教育なのか。
| 
| 大学は上記三つの機能を併せ持つかもしれないが、それを超え
| た目的がある。
| 
| 真理の追究こそが近現代の大学の目的である。
| 
| 高等教育は、真理の追究の過程に触れることによって成り立つ
| 。そして真理の追究のひとつに、社会の病理を研究し、虚偽を
| 批判する仕事がある。これは近現代の大学が持つ最も重要な機
| 能である。政治や経済や教育が、時の政治権力によって誤った
| 一方向に流れるとき、その歪みを映す鏡の役割が大学に求めら
| れている。
| 
| ここ数年にわたって文部省より提案され、今年三月、文部科学
| 省の調査検討会議によってまとめられた国立大学の独立行政法
| 人化案は、近年の言葉の詐術の最たるものである。
| 
| 例によって国際化、競争力、規制緩和、効率、自由、独立とい
| った流行語で煽りながら、あたかも各国立大学が文部科学省の
| 規制から自由になり、特色ある大学に変わっていくかのように
| 言われている。
| 
| だが本当の姿は、大学の運営を学長、副学長や学部長によるト
| ップダウンの企業経営型に変え、各大学の中期目標さえも文部
| 科学相が定め、実績の評価も文科省の評価委員会で行うもので
| ある。
| 
| 独立と正反対のもの、目標の指示、計画の認可、予算と直結す
| る評価によって、文科省に柔順な学長や少数の大学管理者を選
| ばせ、管理を容易にしようとしているだけである。
| 
| 結局、日本社会に大学という制度は根づかなかったのか。
| 
| (2002年6月14日)
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

|▼最後の一文のあまりの厳しさに、思わず唸ったことよ。

|根づかなかった、というのであれば、「大学という制度」とい
|うよりも、「大学という文化」と言った方がいいのかな。

|哀しいのう。
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編集発行人:辻下 徹 admin@letter.ac-net.org
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