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新首都圏ネットワーク

<裁量労働制に関するパブリックコメント>

労働基準法38条2項の裁量労働制を大学教員へ適用可能とする告示案について

      2003年10月8日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局


1.労基法38条2項による裁量労働制には深刻な問題がある

 現行労働基準法38条2項に規定された裁量労働制は、週40時間労働制移行に
伴う労働コスト上昇を抑えることを狙いとした1987年の労基法改正にその起源
を持っている。そのため、実際の運用の中で労働時間の拡大は野放し状態にな
り、健康破壊、さらには過労死や過労自殺さえ報じられるに至っている。実に、
裁量労働制は大きな社会問題となりつつあるのである。このような裁量労働制
が既に大幅な超過勤務状態の教職員層を大量に抱える大学に適用される場合、
同様の問題がいっそう深刻な形で生じるのではないか。

 また、労働者の側からは、労基法38条2項による裁量労働制が、成果主義賃
金への移行を容易にするものではないかという警戒感が示されている。現在で
は、この成果主義賃金はかえって労働意欲を低下させ、進取の気風を萎縮させ
るとの反省や批判が労使双方から提出されているのである。大学教員にこの裁
量労働制が適用される場合、研究成果の査定によって賃金を決定する方向へ傾
斜することが予想され、研究活動を大きく歪めかねない事態が生じよう。


2.大学教員の労働時間管理方式については慎重な検討が必要である

 現在国立大学に在職する教員には、教育公務員特例法による研修権などによっ
て、自己の労働時間管理に大幅な裁量が認められている。そこには、教育研究
活動という業務の特殊性を考慮した合理性が存在する。しかし、労基法38条2
項のいう裁量労働制が、「裁量」という用語が埋め込まれているからといって
現在の業務のあり方を保証するものではないばかりか、成果主義賃金を準備す
る危険な陥穽となる可能性があることに注意しなければならない(前述1参照)。
従って、今なさねばならないことは、闇雲に既存の裁量労働制を適用すること
では決してない。現行の労働時間管理システムを法人化後の国立大学にどのよ
うな方式で継承するのが合理的か、あるいは改善するためにどのような改革を
行うのかなどについて、模索も含めて慎重な検討を行い、大学に相応しい新た
な方針を策定することこそ必要である。


3.告示案は撤回し、大学における慎重な議論の結果を待つべきである

 国立大学協会はこうした深刻な問題を内包する労働時間管理に関して真摯に
議論せず、何の根拠も示さないまま、大学教員への裁量労働制適用を求める要
請書(2003年8月6日国大協総第201号)を提出した。厚生労働省は、従来、教育
職員の労働形態に鑑み、同職員への裁量労働制適用は不適切との見解を採って
きたにもかかわらず、これまた何の根拠も目的も示さないまま、適用可能とす
る法令改正(大臣告示)案を提示したのである。しかも、従来の見解との整合性
をとるためか、告示案に「主として研究する業務に限る」という文言が括弧付
きで挿入された。このため、この告示によって教員に適用、非適用の区分が持
ち込まれることさえ起こり得る。

 大学教員の勤務のあり方全体に深刻な影響を与える法令改正をこのような手
法で行うことは将来に禍根を残す。告示案は撤回し、大学の現場における検討
の結果を待ち、必要であれば適切な法的措置を講ずるべきである。そのような
措置に至るまでは、教育公務員特例法の精神を引き継いだ研修諸規定を就業規
則に盛り込むことによって対処することが妥当である。