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地学団体研究会機関誌 そくほう 2003年10月号 法人化で、どうなる国立大学 ■議論をさけて決まった国立大法人法 国立大学法人法の成立により、来年4月より全国89の国立大学が国立大学法人に変 わることになった。有事法制やイラク特措法の審議に平行しての不十分な審議の中で、 数々の問題点を先送りして、7月9日に法案自体は成立した。国会での審議では、法案 の持つ問題点が次々と浮き彫りにされ、文科大臣をはじめ政府側はしばしば答弁不能 に陥り、失言、訂正、お詫び等々、委員会審議はしばしば紛糾したが、最終的には与 党による強行採決で成立した。これほどまで強引に国立大学を法人化する必要がある のだろうか。また4月以降、 国立大学はどのように変わってしまうのだろうか。 ■なぜ法人化なのか 国立大学の法人化はもともと行財政改革の一環としてはじまった。公務員定員の一 律25%カットの目標を全国の国立大学教職員13万人を非公務員とすることで簡単に達 成できることが、この制度の発端である。しかし、それがしだいに、“日本経済再生” のための大学改革ということで、大企業などのために短期間に実用化できる研究成果 を出せる大学を重点的に育てるという方針が付け加わってきた。 小泉構造改革路線では、大学経営は「民間的発想の経営手法」によるものとし、 「能力主義・業績主義に立った新しい人事システム」「独立採算性」「競争原理」な ど、新自由主義的な考えに基づきビジネス原理を導入することを謳っている。 また、文科省は「個性豊かな大学づくり」といっているが、実際には各大学の「中 期目標」の決定権は文科省にある。文科省内の「評価委員会」が各大学の業績を評価 し、実績に応じて「運営交付金」を配分する仕組みになるのである。結果的に、国は お金は出さずに、大学を思うままに変革できるようになるのである。 ■法人化によってどう変わるのか 設置者が単に国から国立大学法人へと変わるだけではない。具体化されるにしたがっ て、さまざま弊害が出てくると考えられる。 大学側としては、予算獲得のため、“自主的改革”という名のもとに、競って国の 意向に沿った改革を進めなければならなくなる。教職員の任期制が導入されれば、そ のような意向にそわない者は首を切られ、都合のよい者だけが集められるようにもで きる。 一方、産業界の期待に応える即効性の高い研究・開発が優先的に評価され、企業の 利益に沿った研究誘導がおこなわれる。地学関係分野の大半は時間のかかる基礎研究 であり、このような研究や、金儲けにつながらない研究が冷遇されるのは必至である。 学生にとっても、大学ごと、学部ごとに学費が設定できるようになるため、何年か 後には高額負担がのしかかってくることが予想される。また、教員が予算獲得に力点 を置き、教育がおろそかにされる状況さえ考えられる。 今後、定員削減を目的として、国立大学の統廃合も進められると、近いうちに国立 大学のない県が生じるであろう。地域の教育・研究の拠点でもある国立大学が失われ ることになると、その実質的な影響は大きい。さらには、こういった企業論理の導入 や任期制などの流れは、小・中・高等学校やその教員に波及するおそれもある。 ■学問の自由を守るために 以上のように国立大学法人化は、資本の大学支配、国策奉仕の大学づくりを目的と した改悪である。現在必要なのは国民のための大学改革であり、企業や新規産業育成 のためだけの大学なら、もはや「大学」と呼べない。 「学問の自由」と「国民のための科学」を進めるために、地団研の会員も声をあげ、 国民的な運動にしてゆこうではないか。 |