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新首都圏ネットワーク

国公私立大学通信抄 2003.09.13(土)

http://ac-net.org/kd/03/913.html
前号:http://ac-net.org/kd/03/909.html

--[kd 03-09-13 目次]--------------------------------------------

【1】国立大学法人評価委員会令の制定に関するパブリックコメント
   藤田正一氏(北海道大学)提出

【2】フォーラム「「産学連携」国立大学法人化後の職務発明」について
(メールマガジンBTJ のコメントを読んでの感想)

【3】「都立4大学の統廃合をめぐる危機の現状」より
http://www5.ocn.ne.jp/~union-mu/tohaigonokiki.htm

【4】(投稿)佐藤清隆氏からのメッセージ
国立大学ではたらく皆様へ   教職員組合への加入を訴えます
http://ac-net.org/dgh/03/912-union-qa.pdf

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【1】国立大学法人評価委員会令の制定に関するパブリックコメント
   藤田正一氏(北海道大学)提出
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「                        平成15年9月10日

文部科学省高等教育局
高等教育企画課企画係 御中

                藤田正一
                北海道大学大学院獣医学研究科教授 

     「国立大学法人評価委員会令」に対する意見

上記法令の概要では、国立大学法人評価委員会の所掌事務等の記述はあるが、
委員会の権限と業務が明確で無い。

国立大学法人化に伴い設置が予定されている国立大学法人評価委員会そのもの
の存在が憲法の保証する学問の自由の精神に抵触しかねない。従って、国立大
学法人評価委員会令の制定にあたっては、この委員会の業務と権限を、学問の
自由の精神に抵触しない範囲に限定する縛りを明確にし、法令に明文化する必
要がある。違憲法令とならない様、十分に配慮いただきたい。」

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【2】フォーラム「「産学連携」国立大学法人化後の職務発明」について
(メールマガジンBTJ のコメントを読んでの感想)
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BTJ(Bio Technology Japan)は6万人を越す講読者を持
つというバイオ研究者向けの日刊メールマガジンである。
最近は国立大学法人化後の国立大学への産業界の思いを
率直に代弁しているように感じるが、9/12号では9/11
に開催された先端技術フォーラム「「産学連携」国立大
学法人化後の職務発明」*1 の、報告が掲載されていた。

その中で、BTJ の編集者である宮田氏(日経BP社先端技
術情報センター長)は、法人化後の国立大学は、知識資
本主義に突入した日本の産業が復活する鍵を握るもので
あり、大学人は今は「マインドセットを劇的に変えるべ
き時」を迎えている、という趣旨の主張されている。
「今回の質問でも、企業に国立大学法人後に共同研究や
知的財産の分配がどうなるか情報開示が進んでいないた
めに、ただでさえ今までの共同研究の経緯から相互に不
信感のある大学と企業の溝が広がっているように感じる」
という感想も書かれているが、「不信感」の規模を誤認
されているのではないかろうか。

産業界向けの「装置」を無数に組込んだ国立大学法人制
度を、大学の意向を露骨に無視して力づくで実現し、さ
らに、マッチングファンド制度*2が象徴するような、産
学連携をしなければ予算が十分に来ない種々の財政誘導
法を次々と導入するだけでなく、「経常的研究費」がな
くなりつつある中で、全分野に開かれた競争的研究費と
して全研究者が依存せざるを得なくなりあつつある科研
費まで、来年度から産業界にも開放させた(*3)のだから、
大半の大学関係者の産業界への不信感は埋めようがない
ものとなっている。力と金を背景に、産業界に大学人を
奉仕させるべく「マインドセットを劇的に変えよ」と迫っ
ても、すでに風化していた、産業界への嫌悪感を大学に
蘇えらせるだけであろう。(編集人)

*1)http://biotech.nikkeibp.co.jp/news/detail.jsp?id=20021709

*2) 経済産業省大学発事業創出実用化研究開発事業
(通称:マッチング・ファンド)前年度補正予算30億円。
http://www.waseda.ac.jp/rps/fund/

cf: 産学連携誘導の意匠一覧
http://www.cjr.shizuoka.ac.jp/renkei_update/sangaku_4.html

*3) http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/hojyo/f_03091101.html

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【3】「都立4大学の統廃合をめぐる危機の現状」より
http://www5.ocn.ne.jp/~union-mu/tohaigonokiki.htm

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【4】(投稿)佐藤清隆氏からのメッセージ
国立大学ではたらく皆様へ   教職員組合への加入を訴えます
http://ac-net.org/dgh/03/912-union-qa.pdf
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国立大学ではたらく皆様へ   教職員組合への加入を訴えます

                           2003年9月

                    広島大学教職員組合執行委員長
                                      
                              佐藤清隆

 最近の報道によれば、悪化する職場のメンタルヘルス問題は深刻な事態となっ
ています。たとえば、5年連続3万件を超えた自殺のうち、「経済生活や勤務問
題」を理由とするものが増加しています。さらに、メンタル・ヘルス研究所の
調査では、「心の病」のため1月以上休業している組合員がいる組合の割合は、
3000人以上の組合では81.5%にものぼり、その状態は悪化する傾向にありま
す。その原因として、リストラによる就労不安に、業務の多忙化と成果主義が
重なったためという考えが有力です。

 このような深刻な例をあげる理由は、国立大学法人化の究極の姿と関係する
からです。大幅な財政カットをしながら教職員ひとりひとりを成果主義で競わ
せて、トップダウン運営で短期的な成果をめざす現下の法人化の行く末は、も
しもセーフテイネットが整備されなければ、上述のような事態を生む労働環境
を全般的に日常化させるのではないか。そのような環境では、国民の期待に応
えた優れた教育や研究、医療活動ができるはずもない。本来は楽観主義者の私
ですが、心の底から危惧せざるを得ません。

 「そうなってはいけない、そうなるはずはない」と思いつつ、「そうなるか
も知れない」との思いを否定できない。その逡巡を振り切って、「そうならな
いためのセーフテイネットづくり」を、教職員組合に託して頂きたいと思いま
す。

 広島大学教職員組合(*1)では、組合には入っていない方々が組合に対して疑
問に思われていると予想される事柄を20項目に整理して、それぞれに私ども
の考えを回答した、『Q&A』を作成しました(*2)。

全国の皆様にも、是非ご紹介したいと思います。

(編集人註*1) 広島大学教職員組合サイト:http://home.hiroshima-u.ac.jp/union/
(編集人註*2) http://ac-net.org/dgh/03/912-union-qa.pdf に転載

***

「教職員組合の必要性に関する20のQ&A」の
question一覧(全文は別途参照(*3))

Q1:法人化されて、非常勤職員も広島大学で働き続け
られるのでしょうか?

Q2:確認しますが、私たちの給料はこれからは人事院
勧告では決まらないのですね?

Q3:なぜ「法人化されると労働組合の役割が重要にな
る」のですか?

Q4:組合に入るメリットを、もっと詳しく説明してく
れますか?

Q5:法人化後は、色々と労使で取り決めねばならない
ことがあることはわかりましたが、そこに組合はどのよ
うに関わるのですか?

Q6:過半数代表に、現在の教職員組合がなれるのです
か?

Q7:運営費交付金で人件費や研究費が決まるから、組
合が交渉しても、労働条件や研究条件をあまり左右でき
ないのではないでしょうか?

Q8:非公務員化されたあと、公務員の時と労働条件や
福利厚生が変わるかどうかが気になるのですが、組合か
ら働きかける余地はありますか?

Q9:法人化してからなら組合に入ってもよいのですが、
今入らなければいけませんか?

Q10:教職員組合は、どんな形であれ「競争原理」や
「能力主義・成果主義」の導入に反対しているのですか?

Q11:組合は、「任期付き職員」をどのように捉えてい
ますか?

Q12:「数を頼んで自分を守る」という組合のやり方は
性に合わない。やはり、自己責任の時代では、自分の事
は自分で守るべきではないでしょうか?

Q13:「これだけ景気が悪く、国と自治体に666兆円も
の大変な借金がある状況では、公務員給与を下げる人事
院勧告は当然。民間は厳しいのに、公務員は恵まれてい
る。大学は特にそうだ。非公務員化されても仕方がな
い。」という声があり、それに抵抗する組合は、社会の
支持を得られないのではないでしょうか?

Q14:組合はよく「たたかう」とか、「・・・のたたか
い」という言葉を使うので、組合は「何でも反対」と見
られていませんか?

Q15:組合に入ると、経営者に差別待遇されませんか?

Q16:過激な団体交渉を行ったり、思想・政治的に偏向
しませんか?

Q17:組合の組織や財政はどうなっているのですか?

Q18:組合費が高いのではないですか?

Q19:各種連合体へ加盟しているのですか?

Q20:組合に入ると役員が回ってきて忙しくなり、業務
に支障が生じませんか?


(編集者註*3):http://ac-net.org/dgh/03/912-union-qa.pdf
に置きました。Q13への回答だけ転載します:

「Q13:「これだけ景気が悪く、国と自治体に666兆円も
の大変な借金がある状況では、公務員給与を下げる人事
院勧告は当然。民間は厳しいのに、公務員は恵まれてい
る。大学は特にそうだ。非公務員化されても仕方がな
い。」という声があり、それに抵抗する組合は、社会の
支持を得られないのではないでしょうか?


A:多くの難しい問題が含まれている質問で、ここで完
全に回答することはできませんが、問題点だけを指摘し
ます。

まず、国と自治体がななぜ景気が悪いのかについての問
題提なぜ借金大国になったのか、そして、な起です。
666 兆円という大きな借金は、ムダな公共事業に毎年50
兆円もの予算を投入するなどの公共投資が主な原因です。
一方、今年度(平成15 年度)の賃下げ勧告で削減され
る予算は725 億円程度と桁が違い、国の借金地獄解消に
役立つようなものではありません。また、高等教育費へ
の国の出費は先進国でも最低水準で、それも借金大国化
の原因ではありません。

一方で景気が悪化している原因のひとつに、「賃下げの
悪循環」というものがあります。賃金が「賃上がらない
と、物を買おうとしない。とくに人事院勧告は、公務員
だけでなく賃金などが人勧に準拠している民間労働者な
ど、3,500 万人の生活にも影響しています。「民間の賃
金が下がるから公務員も下げる」という論理で人事院勧
告による賃下げがおこなわれると、さらにそれが民間賃
金の切り下げにつながる、という悪循環です。これを、
断ち切る必要があるのです。さらに非公務員化には、高
等教育への国の責任をさらに軽減し、教職員の身分を不
安定化させて教育研究水準を低下させる危惧が含まれて
います。

なお、定員削減下でも「大学改革」に伴う仕事の量は増
大し、とくに多くの大学事務職員のサービス残業は日常
化しています。すでに「公務員は楽だ」という議論は、
実態に合うとはいえません。そもそも、公務員の生涯給
与も、民間に比べると決して有利ではありません。にも
かかわらず多くの仲間が、さまざまな努力を経て国立大
学への勤務をめざしたのは、「社会全体への奉仕者」と
して身分を保証された公務員として、高等教育研究や医
療活動に従事したいと願ったからです。

最近出版された「豊かさの条件」(暉峻淑子、岩波新書、
2003 年)にあるように、日本の勤労者の勤務条件は最近
になってさらに悪化しており、民間と手を携えながら、
「労働条件のデフレ・スパイラル」を、どこかで断ち切
ることが必要ではないでしょうか。」

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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
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