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新首都圏ネットワーク

大学再生のために何をなすべきか

独立行政法人問題千葉大学情報分析センター事務局から『独行法情報速報No.26』が
発行されましたので、ご紹介します。

国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

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独行法情報速報No.26

特集:千葉大学再生のために何をなすべきか


2003.9.8 独立行政法人問題千葉大学情報分析センター事務局
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Club/9154/

速報発行再開の辞
当初、「5月末には成立」と、文科省やジャーナリズムサイドではいわれていた国立
大学法人法は、厳しい批判を浴び、からくも国会会期の延長にすくわれて、去る7月
9日に成立した。法案審議中、首都圏ネットなどを中心とした国会要請の運動に協力
するため、本速報の刊行を休止していたが、本速報の再開に当たり、本速報編集の基
本的立場を再言し、こうした活動の現在的意義を述べておきたい。
本速報は、国立大学法人化に関する重要な全国的情報や学内情報を伝え、それを研究
教育機関である大学という組織のあるべき原理から分析し、そして千葉大で何をなす
べきかを提言する、学内情報・討論紙である。いま大学が大学であり続けるためには
何をなすべきか、状況追随に陥らず、明確な自律的判断をもつためには、情報の共有
と論理的な議論の交流とが不可欠というのが、本速報の刊行の初志である。そして、
こうした見地は、国立大学法人法の成立によってますます重要になっていると、速報
編集者たちは考えている。

法人化による大学崩壊の危機をくいとめ、千葉大学を再生させるために、
今、何をなすべきか

成立した国立大学法人法は、整合性をもたない奇妙な法律である。それは、中期目標
を文部科学大臣が定め学長が役員等を任命し、というように、トップダウンの原理で
の全国の大学の組織編成変えを志向しようとしている。ところが研究教育という、現
場や分野の自主性・自律性を尊重せざるを得ない大学の特性に規定され、国は、「こ
の法律の運用に当たっては」「教育研究の特性に配慮しなければならない」(法第三
条)というような、矛盾する規定が入りこまざるをえないのである。法案、とりわけ
こうした官僚統制を強め、教育研究の自立性を弱化させる条項には、国会審議で厳し
い批判がだされ、参議院では実に23項目という異例の付帯決議(法の本則は40条
のみ)がつけられた。以下その重要なものを紹介する。

【開示1】国立大学法人法等に対する附帯決議(参議院)
[http://zendaikyo.or.jp/dokuhouka/03-7-8futaiketugi.htm]

二 国立大学の運営に当たっては、学長、役員会、経営協議会、教育研究評議会等が
それぞれの役割・機能を十分に果たすとともに、相互に連携を密にすることにより各
組織での議論を踏まえた合意形成に努めること。また、教授会の役割の重要性に十分
配慮すること。
三 役員等については、大学の教育研究や運営に高い識見を有し、当該大学の発展に
貢献し得る者を選任するよう努めることするとともに、選任理由等を公表すること。
また、政府や他法人からの役員の選任については、その必要性を十分に勘案し、大学
の自主性・自律性を阻害すると批判されることのないよう、節度を持って対応するこ
と。監事の任命に当たっては、大学の向を反映するように配慮すること。
四 学長選考会議の構成については、公正性・透明性を確保し、特に現学長が委員に
なることについては、制度の趣旨に照らし、厳格に運用すること。
六 法人に求める中期目標・中期計画に係る参考資料等については、極力、簡素化を
図ること。また、評価に係る業務が教職員の過度の負担とならないよう、特段の措置
を講ずること。
七 国立大学の評価に当たっては、基礎的な学問分野の継承発展や国立大学が地域の
教育、文化、産業等の基盤を支えている役割にも十分配慮すること。また、中期目標
等の業績評価と資源配分を結びつけることについては、大学の自主性・自律性を尊重
する観点に立って慎重な運用に努めること。(以下省略)
十六 国立大学法人への移行について、文部科学省は、進捗状況、課題などを明らか
にし、当委員会に報告を行うこと。
二十 職員の身分が非公務員とされることによる勤務条件等の整備については、教育
研究の特性に配意し、適切に行われるよう努めること。また、大学の教員等の任期に
関する法律の運用に当たっては、選択的限定的任期制という法の趣旨を踏まえ、教育
研究の進展に資するよう配慮するとともに、教員等の身分保障に十分留意すること。

【分析1】法人化後の大学の制度設計には、大きな幅が存在する

附帯決議は法的拘束力をもたないが、その法律の行政的運用においては尊重されねば
ならないものとされており、政令や省令で規定される内容は、この附帯決議に規定さ
れるべきものである。見られるように附帯決議は、学長の専断に陥ることなく、「各
組織での議論を踏まえた合意形成に努めること」また、「教授会の役割の重要性」を
指摘し、学外役員の任命にあたり、「天下り」との謗りを受けない措置と、選任理由
の公表をもとめている。学長選考において、現学長が加わる場合は限定的であること
を求めており、また、教員の任期制に関しては、選択的限定的任期制という「教員の
任期等に関する法律」の趣旨を踏まえること、教員等の身分保障に十分留意すること
をもとめている。中期目標・中期計画の作成、資源配分などについても大学の自主性
・自律性の尊重をもとめており、〈開示1〉にあげなかった項目でも、資源配分のあ
り方や、労働関係について、重要な指摘が行われている。こうした指摘を生かし、役
員会・教育研究評議会・経営評議会の権限分担と合議をふまえ、部局教授会の自主性
を尊重する大学運営の制度設計を、大学として行うことは可能である。同時に、法人
化後、学長が理事を選任し、その学長と「学長が指名する理事」によって最初の「教
育研究評議会」の評議員は構成され(国立大学法人法附則第二十条、本則第二十一
条)、つぎに学部、研究科など「重要な組織の長のうち、教育研究評議会が定める
者」が評議員となる(同二十一条)から、学長の意に沿う者のみで教育研究評議会を
構成すること、さらに経営協議会委員も学長の意に沿う者のみで固めることも不可能
ではないのが、この法律である。国立大学法人法のもとで、どのような法人化後の制
度設計をするのかは、いよいよこれから待ったなしに問われるのである。それでは、
どのような作業が必要と国大協ではいわれているか。

【開示2】国大協で示された「国立大学法人移行に伴い各大学が行う主な人事関係事
項」
〈法人移行前〉国立大学法人移行について職員への周知/経営協議会委員、教育研究
評議会の任命のための準備/就業規則の作成準備/役員の報酬等の支給基準の検討/
職員の給与及び退職手当の支給基準の検討/人事交流・研修等についての検討/職員
の採用等についての検討/兼職・兼業のルール等勤務時間・服務についての検討/安
全衛生管理体制の整備
〈法人移行後〉経営協議会委員、教育研究評議会評議員の任命/役員の報酬等の支給
基準の文部科学大臣への届け出及び公表/職員の給与及び退職手当の支給基準の文部
科学大臣への届け出及び公表/就業規則の届け出等及び職員への周知

【分析2】山積されている移行処理上の難問

(1)今年度中に法人運営の基本方針、具体的諸規則を学内合意の上で決定しなけれ
ばならない
 【開示2】に示された〈法人移行前〉事項の処理は、法人の組織・制度の制度設計
なしには処置できないものであり、またその一つ一つが充分な検討と慎重かつ迅速な
処理を必要とするものである。たとえば法人移行後、直ちに理事を任命して役員会を
発足させ、また教育研究評議会と経営協議会も発足させねばならないが、評議員や経
営協議会委員の人数・規模をどのようなものにするかが定まらなければ、人選も任命
もできない。「経営協議会委員、教育研究評議会評議員の任命のための準備」とは、
制度設計とそれに基づく具体的な学内規則の作成作業とならざるをえない。さらに、
役員会の規模も、別表に「定める員数以内の理事を置く」(国立大学法人法第10条)
とあるように、理事の業務分担を定めないと確定できないものである。そして理事の
業務分担は、法人化後の全学的運営の方式――現行の副学長制をどこまで継承し、ど
う改革するのかなど――を想定することなしには定まらない。
(2)千葉大学における特殊な困難をどう乗り切るか
千葉大学では、この移行の処理をさらに困難にする問題を抱えている。現学長の再選
二期目の任期が来年7月で終了する問題である。具体的に示そう。2004年4月の法人
発足の時に、あと4ヶ月しか任期を残していない学長が、理事、経営協議会委員を指
名や任命し、教育研究評議会の評議員の一部も指名できることになっている。またそ
の経営協議会委員と教育研究評議会から選出された委員で構成される学長選考会議
が、次期の学長の選考を実施するのである。これでは各機関成立の合理的根拠が稀薄
のまま、しかも機関権限についての全学的合意が調達されないまま法人に移行すると
いう極めて不幸な出発とならざるを得ない。そればかりか、次期学長の選考は、前学
長による「後継者指名制」との謗りを避けることはできないであろう。
この困難を打開するには、今年度中に4つのことが現評議会のイニシアティブのもと
でなさねばならない。第1は(1)で述べた制度設計である(以下の【提言1】参
照)。第2は制度設計に基づいた理事、経営協議会委員、学長指名の教育研究評議員
の選考方法の確立である。第3に、法人発足時の理事、経営協議会委員の選考であ
る。そして第4は学長選考規定の制定である(後述の「学長選任方法の確立にむけ
て」参照)。

【提言1】国立大学法人千葉大学の制度設計への基本的視点

@法人化後の千葉大学の運営機構と人事制度の基本点について、WGなどの報告を待
つのではなしに教授会などで直ちに議論を開始し、現評議会のもとで制度設計の基本
になる規則案を今年度中に決定する。具体的には、学長選考方法内規案、学長選考会
議規則案、役員会規程案、教育研究評議会規程案、経営協議会規則案を作成し、それ
ぞれの権限関係、運営方法を明確にする。
A国立大学法人法についての参議院附帯決議で、役員等についてその「選任理由等を
公表すること」とされたことに鑑み、役員・経営協議会委員の選考基準を定め、とり
わけ学外役員の選考に当たっては、評議会からの推薦のうえで学長が選任する。
B教育研究基礎組織としての部局の自治の不可欠性を確認し、教育研究体制および教
員人事の決定についての教授会の優先性を確認する。
C各教育研究基礎組織の活動に必要な基盤的条件の保証と、時限的集中プロジェクト
の推進を両立させる、定数管理と予算配分の原則と実施方法を規定する。
D被雇用者の過半数代表の積極的な支持をうけ、また学問の自由を支える身分保障を
ふくむ就業規則を制定し、労働基準法や労働組合法等に基づく対等で良好な労使関係
の樹立をはかる。

学長選考方法の確立にむけて

法人化後の学長の権限の大きさを考えれば、適切な学長を選考できるかどうか、その
ための制度設計をどうするかは、今後の大学運営に関して死活的な重要性をもつと
言っても過言ではない。ここでは、東京大学で検討されている「総長選考方法の確立
に関する方策」を中心とする制度設計の考え方を紹介・分析し、千葉大学でどのよう
な制度設計が進められるべきかを提言する。

【開示3】東京大学中期計画(第三次案)

U業務運営の改善及び効率化に関する目標を達成するためにとるべき措置
1運営体制の改善に関する目標を達成するための措置
○総長の選任方法に関する方策
・国立大学法人法の定めに依拠しつつ、大学運営について識見のある適格者を総長と
して選ぶことを可能にし、かつ総長に強い正統性を付与する選考方法を確立する。
○総長の任期の設定に関する方策
・総長の任期について、中期目標・中期計画の策定・施行を責任を持って担当できる
ように、移行期間を設けつつ、その始期および長さを適切なものに設定する。〔以下
略〕

【開示4】東京大学組織・運営制度WG中間報告(H15.7.15)

(1)総長選考プロセスについて
別紙1のとおり、総長選考に関する手続きを検討し、総長選考内規案(素案)として
取りまとめた。〔中略〕実際の総長選考手続きとしては次期総長が理事などの人選に
必要な時間の確保や運営の継続性を考慮し、選考内規最終案を来年3月までに学内諸
会議に提示後、4月初旬に総長選考会議で総長選考内規を制定、代議員会や投票等を
経て10月初めまでに次期総長予定者を決定する日程の方向で検討中である。〔以下
略〕

【開示5】東京大学総長選考内規(案)

第1条 総長の選考は、東京大学総長選考会議(以下「選考会議」という)がこの内
規により行う。
第3条 選考会議が総長の選考を行うに当たっては、この内規に従って選考会議が定
める候補者につき、選挙資格を有する者に選挙を行わせ、その結果に基づいて総長予
定者を決定する。
第5条 選挙その他総長選考に関する事務は、選考会議が管理する。
〈以下選考プロセスの概要〉教育研究評議会から8名、経営評議会から8名程度の委
員を選出して選考会議を構成。⇒教授会構成員からの代議員選出、代議員が第1次候
補者10名以内を選出、加えて経営評議会が2名以内を推薦可とする。⇒選考会議が面
接調査を行い、第2次候補者を3〜5名に絞る。⇒第2次候補者に対する教授会構成
員投票により、最終候補者1名への絞込み(単記無記名投票、過半数を得る者)。⇒
選考会議による、総長予定者の決定、文部科学大臣へ申し出。

【分析3】学長のリーダーシップの前提は、全学からの信任

東京大学の法人化後の運営組織制度設計の基本コンセプトは、@総長のリーダーシッ
プの強化と部局自治の尊重との最適バランス確保、A透明性の高い手続きにより効率
のよい全学的視野に立つ意思決定の仕組みの創出、B全学的視点から戦略的な一貫性
をもつ企画案創出の体制確立、C教員の大学運営における負担の軽減、であるといわ
れている(UT21会議)が、現在、総長のリーダーシップを確保しうる補佐体制と
いう視点から、企画・財務・総合調整の機能をはたす、かなり大きな「中枢組織」の
構築が検討されているようである。7人の理事がそれぞれ1室ずつの事務機構を持つ
ような大きな組織が、充分な連携を持って運営しうるのかは、疑問であるし、こうし
た大規模「中枢組織」がどこの国立大学でも可能とは思われない。東大の運営組織案
はこうした問題点を含んでいるが、他方、学長のリーダーシップの確保には、全学か
らの信任の確認の明示が必要とし、教授会構成員からの投票による総長予定者の選出
手続きを定めようとしている点は、留意されるべきである。

【提言2】千葉大学長選考内規(案)

〈基本的観点〉@国立大学法人法の定めに依拠しつつ、A総合的な学問的視野に立脚
しての大学運営について識見ある適格者を学長として選ぶに適し、Bかつ学長のリー
ダーシップに正統性を付与できる選考方法が確立されねばならない。こうした視点か
らすると選考では、@学長候補対象者に関して学内の広い分野からの推薦、A学長選
考会議による学長候補対象者の広報発行と投票管理、B複数(数名)の学長候補対象
者に対して教員投票による最終学長候補者への絞込み、の三つの手続が、学長選考会
議での学長予定者の決定までに不可欠と考えられる。
〈選考内規概要の一案(骨子)〉@教育研究評議会から6名、経営協議会から6名程
度の委員による学長選考会議の構成、A教員投票有権者の例えば1%(あるいは例え
ば15名程度)以上の連記署名による学長候補者の推薦の選考会議による受け付け、
B学長選考会議の委員が学長候補者に推薦された場合、学長選考会議の委員を辞任、
C選考会議によるインタビュー、候補者の所見の公報発行と投票管理(選考会議、あ
るいは同会議から付託を受けた組織による候補者数名程度への絞込みも考慮)、D教
員投票による学長候補者1名への絞込み。
学長候補者の推薦は、部局代表者的な色彩を避けて、全学的視野に立つ人物を推薦す
るという見地からするとAの方法が望ましいと考えるが、従来、千葉大で行われてい
た部局からの候補者の推薦も認める場合には、部局は複数候補者を推薦することが妥
当と考える。現職学長の選考委員就任については、国会答弁、付帯決議第4項に示さ
れているように原則として認められていないと考えるのが妥当である。
〈学長解任の学内手続内規(案)〉
国立大学法人法における、学長に「職務上の義務違反」もしくは「職務の執行が適当
でないため当該国立大学法人の業務の実績が悪化」させる行為がある場合、学長選考
会議は学長解任の申し出を行いうるとの手続きを以下のように規定する。
@学長に当該の行為が存在すると、a)教育研究評議会が議決した場合、あるいは、
b)経営協議会が議決した場合、あるいは、c)教員投票の有権者からその総数の三
分の一以上の連記自筆署名の提出があった場合(学長選考会議はその署名の有効性を
確認し)、学長選考会議は、学長解任の可否に関する会議を開催する、A学長選考会
議は、過半数の賛成により、学長の解任を文部科学大臣に申し出る。

【情報】国立大学の評価機関は全部で6つに

国立大学法人法の成立によって、国立大学はまず3つの評価機関の評価を受ける。そ
れは、独立行政法人大学評価学位授与機構(文科省所管)、国立大学法人評価委員会
(文科省)、政策評価独立行政法人評価委員会(総務省)の3つである。
ところが、これに加えてさらに3つの政府機関が評価を行うことが明らかとなった。
行政改革推進本部(内閣府)は、独立行政法人の中期目標を一元的に点検すると言われ
る(『読売新聞』7月31日付)。総合科学技術会議は、科学技術振興の観点から、国立
大学の運営方法を独自評価すると言う(『日本経済新聞』8月18日付)。評価項目に
は、任期制導入や産学連携が含まれると見込まれている。また経産省は、産業界から
見て役に立つ大学を評価するため、評価作業を三菱総研と河合塾に委託している。
6つの重複する評価が繰り返され、大学はがんじがらめにされるだけでなく、疑いな
く評価疲れを起こすことになろう。