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新首都圏ネットワーク


『毎日新聞』社説 2003年8月24日付

国立大学法人 力尽くして「良き法人」に


 120年余の歴史を誇る国立大学が、国立大学法人化法の成立により、来年
4月1日、「国立大学法人○○大学」に生まれ変わることになった。

 国立大学法人になると、予算や人事面などで大学の裁量、自由度が拡大する。
学長の権限が強化される一方、学外者が参画する役員会、経営協議会の設置が、
義務付けられる。さらに、文部科学省に置かれる国立大学法人評価委員会が、
大学の中期目標・中期計画の業績を評価(教育研究面は大学評価・学位授与機
構に依頼)、その結果は、国の運営費交付金に反映される。国立大学制度の歴
史的転換といえる大きな改革だ。

 それだけに、大学関係者らの不安も大きく、「自由であるべき大学が官僚の
統制下に置かれる」などの批判が噴出。国会、特に参議院での審議は、紛糾し
た。

 参議院の委員会は法案可決にあたり、「学問の自由や大学の自治の理念を踏
まえ、国立大学の教育研究の特性に十分配慮するとともに……自主的・自律的
な運営を確保する」「(中期目標について)文部科学大臣は、個々の教育研究
活動には言及しない……原案の変更は、財政上の理由など真にやむを得ない場
合に限る」など、26項目もの付帯決議をつけている。

 こうした懸念には、もっともなところがある。もともと国立大学の法人化は、
大学や文部科学省の発意ではなく、外部から強いられる形で出てきた。省庁再
編に伴う行政改革の一環として出された独立行政法人制度を土台とせざるをえ
なかったことが、問題の源になっている。国立大学法人の中期目標を文科相が
定める形式になっている点や、国立大学法人評価委員会とは別に、総務省の政
策評価・独立行政法人評価委員会が関与することなどが、その例だ。

 政府の指揮命令下にある独立行政法人が、自主性・自律性を基本とする大学
になじまないことは明らかだろう。独立行政法人とは別の、新しい国立大学法
人にするという制度設計は、いわば苦心の産物であり、もろもろの工夫が盛り
込まれているが、それでも少なからぬ当事者の不安を増幅し、必ずしも祝福さ
れないスタートになったのは、不幸なことだ。

 とはいえ、現行の制度がベストかというとそうではない。国立大学は文科省
の一部局に過ぎず、予算も人事も基本的に国が掌握。大学の意は、通りにくい。

 国立大学法人になると国の権限がむしろ強くなる恐れも確かにある。が、生
命線である評価システムにしろ、学外者を招き、学長の権限を強くする人事シ
ステムにしろ、機能するかどうかは、運用によるところが大きい。大学関係者
は力を尽くしてほしい。

 文科省には自制を求めたい。具体的には付帯決議を尊重することだ。大学の
自主性・自律性が発揮できなければ、良き教育・研究は到底望めない。国立大
学の法人化は、ゴールではなく出発点に過ぎない。少しでも「大学にふさわし
い法人」に育て上げるために、これからが、大事だ。