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新首都圏ネットワーク

『北海道新聞』社説 2003年8月19日付

国立大法人化*文科省支配を断ち切れ

 国立大学を法人化して政府の行政組織から独立させる国立大学法人法が、十
月から施行される。
 来春には北大をはじめ全国の国立大学が自主性の高い八十九の法人として生
まれ変わる。
 これまでとの大きな違いは、各大学に権限と責任が与えられ、自ら教育や研
究の将来像を描いて実行できるようになることだ。
 運営費は国から配分されるが、使途は大学が自由に決められる。得意分野に
力を入れて特色を出すことができる。工夫次第でさまざまな可能性が広がるわ
けだ。
 法人化を大学改革の好機としてとらえ、新しいことに挑戦してほしい。
 問題は、相変わらず文部科学省の統制が続く恐れがあることだ。
 各大学は教育研究や組織運営の方向を具体的に盛った六年間の中期目標・計
画を近く文科省に提出する。
 原案は大学がつくるが、最終的に決定するのは文科相だ。
 これまで国はことあるごとに細かく口を出してきた。中期計画の認可に当たっ
ては無用な介入をせずに、大学の自由な発想を尊重すべきである。
 大学側にも護送船団方式のなかでしみついてきた国への依存心を捨ててもら
いたい。
 国からの運営費交付金の額は中期目標・計画の達成度評価に応じて決まる。
評価のさじ加減によっては国が影響力を行使できる仕組みともいえる。
 これでは予算を盾にした大学支配は変わらない。
 国の関与は極力減らすべきだろう。
 そのために文科省内に置かれる評価委員会の情報公開をしてもらいたい。
 評価の結果だけでなく論議の経過も公表が必要だ。
 法人化に伴い大学の運営組織の役員数は全国で五百人余りに上るという。こ
こが官僚の天下り先になるなどは論外だ。大学側もはねつけてほしい。
 これからカギになるのは、大学それぞれが、自らのめざす方向を明確に打ち
出せるかどうかだ。
 地域でどんな役割を果たそうとするのか。産業との連携をどう進めるのか。
そのためにどんな人材を育てるのか。具体的なビジョンを示してほしい。
 北大では地球環境科学などの得意分野で北海道の豊かなフィールドを活用し
た研究に力を入れていくという。
 日立製作所との間で研究成果や人材を持ち寄り、互いの競争力を高めようと
いうプロジェクトも動きだした。
 こうした例は道内のほかの大学も参考になるのではないか。
 ただ経営を優先するあまり、すぐには成果を得られない基礎科学をおろそか
にするようなことがあれば、大学の見識が問われよう。
 大学も文科省も法人化を生かすも殺すも運用次第と認識すべきだ。