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新首都圏ネットワーク

『科学新聞』2003年7月11日付

総務省が勧告強化
法人化後の国立大学も対象に

 独立行政法人については、所轄官庁が評価し事業の縮小や拡大等をすること
になっているが、総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会は、各府省が必
要だと主張しても独自の判断基準で不必要とした場合には、主務大臣に廃止勧
告をする方向で検討していることが明らかになった。個別事業の改廃のみなら
ず、法人そのものについても廃止勧告する。現在、独立行政法人は9府省62法
人あり、10には30法人が新たに発足する。これだけの法人を公正に評価できる
のか疑念が残る。また、法制度論上、来年4月に発足する国立大学法人も対象
となるため、業務の効率性のみで教育や研究を評価し、大学が廃止される可能
性もある。

 独立行政法人通則法では、主務大臣が、各法人の中期目標期間終了時に、そ
の組織および業務の全般について検討し、その結果に基づいて所用の措置を講
ずることとなっている。具体的には、社会経済情勢等の変化に応じて、法人が
担う必要性が乏しくなった事務および事業の廃止、民営化等を行うとともに、
組織形態や業務の改善を行う。

 一方、総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会は、各法人の主要な業務
および事業の改廃に関して必要な勧告を行うこととされている。今回明らかに
なったのは、その勧告にあたっての基本方針。

 同委員会は、各府省の独立行政法人評価委員会による第一次的な判断を前提
に二次的判断をするのではなく、各法人の年度評価と中期目標期間終了時の評
価を独自に行い、自ら直接判断する。また、勧告を行う際は、局所的な改廃を
求めるのではなく、法人の主要な事務・事業を把握し、その具体的改廃措置の
検討を集中的・重点的に行い、法人ごと改廃を求める。中期目標期間の終了時、
通常であれば5年目に勧告を行い、2年以内には勧告の内容を具体化するよう
求める。

 評価にあたっては、共通の視点と個別の法人の特性を踏まえ、各法人の業務
について大づかみの評価を行った上で、改善の必要な法人について細かく調査
する。具体的な資料やデータをもとに、同様の業務を行っている法人同士を比
較し、競争力のない方に廃止勧告する。

 共通の視点としては、(1)政策上のそもそもの目的は何ですでに達成されて
いるのではないか、(2)その事業にどのような効果があるか、(3)その事業が行
われない場合、国民生活や社会経済の安定等にどのような問題が生じるか、
(4)国が関与しない場合にどのような問題が生じるか、(5)制度上独占的な業務
の場合は、独占によりどのような効果があるか、(6)法人の設立目的と事業の
目的はどのように対応しているか、(7)行政サービスの実施コストは適切か、
(8)地方や民間に移管したらどのような問題が生じるか、(9)公務員型の場合、
なぜ公務員が担わなければならないか、(10)トップマネージメントが発揮され
ているか、(11)アウトソーシングは可能ではないのか―など。

 こうした視点で評価を行った上で、廃止、民間または地方への移管、予算の
圧縮、他の法人との統合、整理縮小なども主務大臣に勧告する。勧告された内
容はすぐに公表しなければならない。

 今回明らかになった勧告の方針は、研究開発型法人の競争力を大幅に低下さ
せる可能性がある。コストや短期的な効果ばかりを求めているため、国が担う
べき基礎的な研究開発ではなく、民間研究所のような開発研究を進めた方が評
価されやすい。しかし、民間型へ開発目標をシフトしていくと「民営化すべき」
との結論に至るという袋小路に入り込んでしまう。また、委員会が法人を評価
する際、各法人にデータの提出や説明を求めるため、トップマネージメントを
発揮して運営していく前に、評価疲れを起こしてしまう可能性も高い。

 現在の法律では、来年4月に発足する国立大学法人も同委員会の評価対象と
なる。同委員会の視点で評価した場合、20年後には国立大学法人自体が存在し
得なくなる可能性もある。

 効率の良い評価を行わないと、本来の仕事ができないばかりか、社会的なコ
ストを増大させ、日本全体の国際競争力を低下させることになりかねない。