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新首都圏ネットワーク


『週刊ダイヤモンド』2003年8月9日・16日合併号


 大学教授が悲鳴を上げる国立大法人化のドタバタ

 七月九日に成立した、ある法案によって、全国の国立大学でドタバタ劇が演
じられそうだ。これまで国の機関であった国立大学を独立行政法人に移行させ
る、国立大学法人化法である。

 来年四月の移行までの八カ月間には、莫大な準備作業が必要。そのあまりの
煩雑さに、国立大学の現場は頭を抱えているのだ。

 たとえば、である。国立大学の教授たちは、書棚に山と積まれた本を一冊ず
つ調べ、目録をつくらなければならない、という。

 民間の企業とほぼ同じ基準で会計処理をするためには、保有資産を評価する
必要があるからだ。従来、国費で購入していた本も、資産の一つとしてバラン
スシートに計上しなければならなくなる。

 独立行政法人への移行で、煩わしい手間がかかるだけではない。多額の費用
も発生する。

 その代表例は「実験室」だ。ある国立大学理工学部の教授は深いため息をつ
く。「来年四月までに実験室を階層しなければならないが、間に合わない。現
時点ではおカネの工面もついていない・・・」

 法人化でなぜ、大学の実験室を改装する必要が出てくるのか。じつは、国の
施設である現時点では、実験室は労働安全衛生法の対象外となっている。それ
が、移行後は対象となるのだ。

 労働安全衛生法では、たとえば「出口を二つ設ける」といった安全衛生上の
規定がある。ところが、大学の実験室では、昨年一〇月時点で一万三〇〇〇室
が違法な状態だった。現在も、一万室以上が規定を満たしていないとされる。

 それを適法状態にするためには、「三〇六億円が必要」と文部科学省は国会
審議で答えているが、実際にはその二倍は必要と見られる。こうした経費は国
立大の今年度予算にも盛り込まれておらず、捻出しようにも手の打ちようがな
い状態なのだ。

 こうした、新たな費用の負担や移行準備についての具体的な支援措置は、法
案の原案はもちろんのこと、付帯決議にもほとんど盛り込まれていない。来年
四月の移行を控えて、国立大学の教授たちが悲鳴を上げるは時間の問題だ。

 本誌・竹田孝洋

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