トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
  新首都圏ネットワーク

asahi.com 2003年7月30日付

岡山県が理論物理研究所新設へ 「お金より頭脳」の世界


 基礎科学の中の基礎科学である理論物理の専門研究所を岡山県が新設しよう
としている。理論研究は高価な実験装置が必要なく、議論と発想がものをいう
世界。厳しい財政事情の下、「お金がなければアタマで勝負」という苦肉の策
だ。すぐに実用につながらない理論研究所を地方自治体がつくるのは国内では
極めて異例。

 科学技術を核にした地域活性化策は、国が進める「知的クラスター」づくり
の事業などにより全国で盛んだが、狙いは超微細技術(ナノテクノロジー)や
医療、バイオ、ロボットなど実用化が期待される分野に集中している。

 岡山県は、借金体質の度合いを示す起債制限比率が都道府県で01年度まで
7年連続ワースト1。独自性を出そうと検討を重ね、「インターネットにつな
がったパソコンと、議論ができる環境があれば十分」(物理学者)という理論
物理に的を絞った。湯川秀樹博士らも指導を受けた物理学者、仁科芳雄博士の
出身県であることも後押しした。

 5月から有識者の委員会で構想を煮詰め、8月4日に委員長の二宮正夫京都
大基礎物理学研究所教授が石井正弘知事に提言書を渡す。研究テーマは、ナノ
テクや情報技術(IT)の基礎となる光量子科学の理論。世界から若手の理論
家約10人を公募し、早ければ来春にも、県がもつ既存の建物内に開所する方
針だ。

 画期的な新理論は世界へ発信する力が強い。県は、ニールス・ボーア研究所
(デンマーク)など海外の有力理論研究所とも交流する準備を進める。

 国は国立大学法人化や産学連携などを進め、科学に短期的成果を求める傾向
を強めている。こうした中で、基礎科学に携わる研究者らには研究の場を確保
したい、という危機感もある。

 素粒子理論が専門の小林誠・高エネルギー加速器研究機構教授は「地方自治
体が基礎科学に理解を示しているのはすばらしいこと。若い人に興味を持って
もらうきっかけになる」と話している。

 物理学は、理論と実験の「分業」が進んだ学問だ。とくに素粒子物理では、
それが顕著。湯川博士や朝永振一郎博士らに代表される理論分野は「紙と鉛筆」
の研究とされてきたが、実験分野は、巨大な素粒子加速器など大がかりな実験
装置を必要とする。