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読売社説 [東大学長信任]「国立大に必要なトップの指導力」


読売新聞ニュース速報

 
 大学紛争期以来の、事実上の学長信任投票である。国立大学がいかに大きな転
 換期にあるのかを、端的に示している。

 東大の教員代表らによる評議会が、大学法人化に向け佐々木毅学長が示した今
 後の運営方針を支持する決議を、全員一致で採択した。

 佐々木氏は、学長権限の強化などを求める「所信」を発表しており、今回の投
 票を、自らの方針に対する賛否を問うものと位置づけていた。

 これまでの国立大学では、学部、学科などが人事や研究体制の決定権を握り、
 学長はその調整役に過ぎなかったと言っていい。しかし、今回の決議は、今ま
 での体制を一変させ、学長に「大統領型」の強い権限を与えるものだ。国立大
 学改革の具体的な動きとして注目される。

 所信は、学部、学科などの学内組織に研究や教育面での目標を明確にすること
 を求め、学内組織再編成についても言及している。大学全体を統括する、強力
 な「中枢機能」を学内に置くことを明らかにし、人事や資金配分に学長がリー
 ダーシップをとることも表明した。

 教職員に、「東大はわれわれに何をしてくれたのか」ではなく、「自分は東大
 のために何をしたのか」と、自らに問いかけることを促してもいる。法人化に
 対する根強い反対が学内にあることを、意識してのことだろう。

 国立大学は九月までに、大学の中期目標、計画の原案を策定しなければならな
 い。学外者を含む経営協議会のメンバー選任も急務だ。授業料や入試をどうす
 るかも、決めなければならない。非公務員となり、スト権を持つようになる教
 職員との労使慣行の確立も不可欠だ。

 かつて、ノーベル賞受賞者を、本人の了解をとらないまま、学長選の候補者と
 した国立大学があった。候補者が公約を示さない学長選を実施した大学も、少
 なくなかった。学長職の「軽さ」、学内の意思決定のあいまいさを示している。

 だが、今、国の保護の下での「大学の自治」ではなく、厳しい競争の中の「大
 学の自立」が求められている。新しい大学像を打ち立てるため、学長の権限を
 強化するのは当然のことだ。

 法人化に向け、助教授以上による学長信任投票を既に実施した大学がある。今
 後予定している大学もある。こうしたことを契機に、大学運営の在り方を抜本
 的に見直さねばならない。

 東大で信任投票が求められたのは、東大紛争最中の一九六八年十一月以来のこ
 とである。それだけ国立大学が厳しい状況にあることを、大学関係者は強く自
 覚する必要がある。

[2003-07-28-09:30]