トップへ戻る   以前の記事は、こちらの更新記事履歴
独行法反対首都圏ネットワーク

『熊本日日新聞』社説 2003年7月22日付

社説 進む大学改革 「教育部門」の充実も必要


 大学の「生き残り競争」がさらに厳しくなる環境が次々と現実化している。
国立大学を来年四月から法人化する国立大学法人法が九日成立した。文部科学
省が大学の先駆的な研究に予算を重点配分する「21世紀COE(卓越した研
究拠点)プログラム」の二回目の採択も十七日に発表された。さらに、京都地
裁は同日、一部の私立大学が入学を辞退した合格者から集めていた入学金や授
業料の返還を命じた。今後は入学金の先取りがやりにくくなる。

 三つの問題には大学の財政事情が深く関係している。国立大学を法人化して
実質的な独立行政法人としたのも、根本的には国の財政難という事情がある。
不足する教育・研究費を効率的に使うため、文部科学省は各大学から出される
中期目標・計画を査定、目標達成度に応じた予算を運営交付金として配分する
ことになった。大学の自主的な運営は可能にはなるが、基本的には文部科学省
の国立大学への支配が強化される。

 「COEプログラム」も、私立を含む大学に対して特別予算を与えて研究の
内容や方向性を誘導する政策だ。今年は、熊本大を含む五十六大学の計百三十
三件が選ばれ、二年にわたる選考は終了した。大学別では東大、京大などの旧
帝大、分野別では医学、工学など理工系の先端的研究が中心となった。世界的
な開発競争が行われている分野で、大学が新しい産業競争力を生み出す母体と
なることを期待するものでもある。

 この制度は個別の研究に特別予算を与えるものだが、現実には大学の序列化
の意味合いも付随するため、二百五十五大学が計六百十一件を競って申請した。
しかし、地元の大学から採択がなかった“空白県”が十四もあり、落胆と共に
「有名大に資金を集中させるためのシステムでしかない」という反発も出てい
る。

 大学の研究にも競い合う環境が必要な時代だ。そのことは否定しないが、研
究者たちが文部科学省の「お墨付き」を得ようと短期で成果の出る研究を探し
求め、産業的な価値から評価する雰囲気も強まっていると聞く。文部科学省に
出す報告文書づくりに要する時間も増えたという。大学の研究には、時間や予
算の効率性を超えた巨視的な判断を求めるものも多い。ことに、基礎分野の研
究にその傾向が強い。遠山敦子文科相は「学問の自由は保障される」と国会で
答弁した。そのことの重みは十分に自覚すべきである。

 国立大学も個別に授業料の値上げを行うことが可能になる。私立大より志願
者が多いという強みから値上げに踏み切るところもありそうだ。一方の私立大
学は、少子化で大学入学者が先細りになる状況の中で、国立大よりも高い授業
料をさらに値上げすることは難しい。入学金の先取りもできなくなるとなれば、
経営環境は厳しさを増す。

 日本の私立大学は学校数でも学生数でも約七割を占める。文部科学省の狙い
は、国立大学の大学院で行う研究部門に重点を置く改革を進めることだろうが、
大学のもう一つの役割である教育部門もさらに改革が行われべきである。この
点で私立大学の果たすべき役割は特に大きい。

 企業や社会が大学生に求めているのは、専門性を基礎にした思考力や創造力
だが、一方で学生の「学力低下」も指摘される。私立大学も専任の教官を増や
し、少人数での教育を徹底することが必要だ。討論形式の授業やレポートの提
出を求める厳しい教育を行う大学が社会から評価され、受験生からも「選ばれ
る大学」になると思われる。それを可能にするための私学助成も必要である。