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独行法反対首都圏ネットワーク


『岩手日報』論説  2003年7月19日付

国立大学法人 

独自の大学像を明確に

 国立大学は今後どう変わるのか。教育、研究の向上に自主性と主体性をどう
発揮していくのか。そして社会や地域での役割をどう果たしていくのか。その
スタートが注目される。

 国立大学法人法が今国会で成立した。国立大学は、来年4月から89の独立
法人となる。明治以来、国の機関として存続した国立大学は国から切り離され、
独自の改革、歩みが求められる。歴史的な転換期である。

 国から配分される運営交付金や人事は、大学の裁量に委ねられる。その責任
者となる学長は、理事で構成する役員会を設け、トップダウンによる意思決定
を行う。管理運営には学外者を起用し、開かれた大学を目指す。各大学は6年
間の中期目標、それに基づく計画を文部科学省に提出し、目標達成度の評価を
受ける。評価は交付金に反映される。これが法人化の骨格だ。

 各大学はまさに自らの責任で教育や研究の将来ビジョンを描き実行しなけれ
ばならない。各大学が掲げる中期目標を最終的に文部科学相が認可することが
大学の真の自立といえるのか、授業料はどうなるのか、などの懸念はまだ残る。
こうした問題を含め今、各大学に問われているのは、目指す大学像を社会に対
し明確に示すことである。

 責任重い授業料決定

 国立大学法人化の狙いは、大学の自主性・自律性の拡大と地域社会との連携
にある。この観点からすれば、各大学の中期目標、計画を文科相が認可し、計
画終了時に文科省の評価委員会が評価して交付金配分に反映するという仕組み
には疑念を抱かざるを得ない。

 社会的使命をそれぞれが自覚し、大学間競争につなげようとすれば、中期目
標も計画もすべて大学に任せ、結果について責任を問う方法こそがふさわしい。
文科省の統制が強くなりかねない仕組みでは、法人化の意義そのものが失われ
る可能性がある。

 一方、受験生や一般市民にとって関心が高いのは、授業料の問題だ。文科省
が標準額を示し、一定の範囲で各大学が決めるとされているが、具体的にどう
するかはまだ明らかにされていない。

 これまで授業料は国が決め、大学にとっては人任せだった。だが、これから
は大学自体の責任で決めることになる。もし値上げするなら「授業などをこう
改善する」との説明責任が欠かせない。教職員の給与も当然問われる。いずれ
にしろ特色も打ち出さず、運営費が足りないから授業料の値上げといった安易
な考え方はもう通用しない。

 岩手大の構想を注視

 法人化に当たり、あらためて大学の役目とは何かを考えたい。それは人材育
成と基礎研究にある。この理念の徹底こそが自立へとつながる。

 本県の岩手大学は、法人後の在り方を問う運営諮問会議で▽人文社会科学部
と教育学部の統合▽動物医科学科の新設▽2005年を目標とする法科大学院
開設−などの構想を明らかにした。これからは地域とより密着し、地味でも着
実に教育と研究に努め、成熟した各分野でオンリーワン的な存在になることが
必要だ。その意味でも岩手大学の新たな戦略がどう実を結ぶか、見極めたい。

 これまで国立大学は、国による「保護」と「統制」の中で、自己変革のエネ
ルギーと社会に対する緊張感に欠けていたことは否めない。大学教員が孤塁を
守り、研究だけに没頭し自由を享受した時代は終わった。

 法人化を国立大学の体質を変える契機としたい。大学が学生や地域住民にとっ
て不可欠で魅力ある教育機関にどう変容するのか。過去からの脱却が緊急課題
だ。

(吉田誠一)