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独行法反対首都圏ネットワーク


『信濃毎日新聞』社説  2003年7月16日付

社説=国立大法人化 地道な研究も大事に


 国立大学法人法が成立し、国立大は来年四月に国の直轄から切り離されるこ
とになった。教育研究の場に新たな活力を吹き込む可能性の一方で、効率一辺
倒に傾くのではないかといった心配も伴う。弊害を生じないように進めていく
必要がある。

 信州大を含め八十九の国立大学法人が誕生する。これまでと変わる点の一つ
は、六年間で達成すべき「中期目標」を文部科学相が定めることだ。文部科学
省内に置く第三者機関が達成度を評価し、結果を国から大学への交付金の配分
に反映させる。

 少子化が進み、大学は生き残りの時代を迎えている。国立大も脱皮するとき
だ。国際競争も激しい。個性を磨き、教育研究の質をより高めないといけない。
国から独立することで予算や人事の自由度は増す。展開次第では改革を加速す
る力になる。

 半面、今回の法人化には懸念も指摘されてきた。国会審議を経てもなお、ぬ
ぐいきれずに残っている。大きな一つは、地味な基礎研究が軽視される心配だ。
評価を気にするあまり例えば、早く成果を見込めそうなテーマに偏ることが危
ぐされる。

 研究によっては二十年、三十年といった積み重ねを必要とする。実社会です
ぐに役立つかどうかだけで価値を測れるものでもない。独創的な装置を造って
素粒子ニュートリノを観測し、ノーベル物理学賞を受けた小柴昌俊さんの研究
は典型である。

 安易な業績主義が広がり、息の長い活動が敬遠されたり、挑みにくくなるよ
うだと社会にとってマイナス効果を生じる。基礎研究も含め、大学全体の活性
化や充実につなげていかなくてはならない。まず鍵になるのは、新たな評価の
仕組みである。

 第三者機関の「国立大学法人評価委員会」を置くことは決まっているものの、
具体的な構成や評価基準はまだはっきりしない。採算性や見栄えだけでなく、
多様な尺度をどう整えるか。それに対応した人選をどう進めるか。適切な詰め
を求める。

 中期目標をどのように定めるかも重要だ。一律に効率化を迫るような発想は
避けたい。文部科学相は国立大学長を集めた会議で、各大学のつくる原案を最
大限尊重する考えを示している。大学の自主性を基本にバランス良く方向づけ
る必要がある。

 大学側の努力も欠かせない。効率偏重に傾けば、地方大学が都市部の大学に
対して不利な立場になる恐れも強い。自らが担う教育研究の大切さを明快に示
し、理解を得る姿勢が一段と大事になる。