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独行法反対首都圏ネットワーク


『新潟日報』社説  2003年7月16日付

国立大法人化 文科省は自主性奪わぬように


 国立大を国の直轄から切り離す「国立大学法人法」が先週、成立した。来年
四月には八十九の国立大学法人が誕生し、新たな一歩を踏み出す。

 これを受けて、週明けの十四日には文部科学省が全国の国立大学長を集めて
法人化について説明した。国立大学協会の臨時総会も開かれた。

 法人化が真の大学改革につながるのかどうか疑問の多い法案だったが、与党
三党が押し切った。

 法案に毅然(きぜん)として反対の声を上げた大学人もいた。だが、大多数
の大学関係者は内心では批判しつつも、仕方がないという態度に終始したよう
に見える。

 とりわけ地方国立大は、法人化は地方大にとっての危機だと言いながら、地
域の共感を得る力をいまひとつ持てなかったのではないか。「知の集団」にし
ては迫力不足の感が否めない。

 法人化する大学には、これまで以上に地域の力を味方にしていく積極性と活
力が求められる。奮起を望みたい。

 それにしても、法人法の中身には問題が多い。

 大学の自主性、自律性をうたいながら、その実、研究や教育内容を決める中
期目標・計画をはじめ、予算に当たる運営交付金、人事など、すべてにわたっ
て国が干渉の手を伸ばしている。

 中期目標は期間を六年とし、文科相が各大学の意見を聴いた上で大学ごとに
決定する。これに沿って、大学が中期計画を作成し、文科相が認可する。

 計画が終了した時点で、文科省に設置される第三者機関の評価委員会が目標
の達成度などの業績評価を行い、交付金に反映させる。

 「これでは四、五年以内に産業への見返りがないかもしれない基礎科学の研
究は冷や飯を食わざるを得ない」と懸念するのは、ノーベル物理学賞を受賞し
た小柴昌俊・東大名誉教授だ。共同通信のインタビューに語っている。

 国の決めた通りにやったかどうかを国の機関が審査する仕組みであり、評価
そのものが公正かつ多角的に行われるのかも危ぐされる。

 文科省は現在でも、全国の国立大に計約二千人の役人を出向させている。法
人化以降も引き揚げる予定はない。

 それどころか、法人化によって各大学に新設される理事や監事のポストに文
科省出身者が就任する可能性が指摘される。特に、役員のうち監事は文科相が
任命するとしている。

 天下り人事が増えれば、大学の主体性を奪うことになりかねない。

 授業料の問題も気掛かりだ。文科省が標準額を示し、一定の範囲内で各大学
が決めるとされた。詳細はまだ明らかになっていないが、何らかの負担増にな
りそうだ。

 法人法には「大学の自主性を重んずる」という国会の付帯決議が盛り込まれ
た。文科省は重く受け止めるべきであり、国民も実行を注視していく必要があ
る。

 国立大自身にもぬるま湯体質からの脱却が求められる。大学間の競争も、文
科省といかに渡り合うかもこれからが本番だ。

 法人になれば、今までとの大きな違いは、学長の権限が大幅に強化され、リー
ダーシップが問われることだ。

 運営交付金の使い方も大学の裁量に任せられる。経営面で学外者を起用する
点も新しい。

 法人化構想が持ち上がって以来、大学自身ではかなり変わったと自負してい
るかもしれない。しかし、外部から見ればまだまだだ。

 学生や地域にこびる必要はないが、教育にしても研究にしても、大学が何を
やっているのか、取り組みや特色が外に伝わらないようでは困る。

 各大学が閉鎖性を一掃し、他大学との差異を打ち出せるかどうかは、意欲と
実践にかかっている。

 地方大には何よりも地域の期待が寄せられていることを忘れず、生き残りへ
全力を傾けてほしい。