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独行法反対首都圏ネットワーク


『陸奥新報』社説  2003年7月15日付

弘大法人化は地域を土台に
 
 
 国立大学法人化法が成立し、来年四月から全国八十九の国立大学法人が誕生
する。弘前大学もその一法人として、改革と競争を迫られることになるが、本
県の特性を生かした研究や活動を、ビジョンを持って地域と連携しながらいか
に展開するかが課題だ。

 国立大学は文部科学省という組織の一部である。法人化されると、人や財産
から成るこの組織体(国立大学)に独立した権利と能力が与えられる。

 教職員の採用や給与、組織再編など自らの裁量で決めることができる。施設
建設のための大学債発行や、独自の資金調達などの経済活動も許される。授業
料は、現行額を標準として一定の上下幅が設けられ、上げるも下げるも各大学
の裁量次第だ。

 そのため、学長の権限が強力になる一方、教職員は公務員ではなく法人職員
になるため、業績や活動ぶりを中心に評価されるという厳しい環境になる。反
面、公務員としての縛りが取れるため、会社役員を兼務できるなど社会的には
自由になる点もある。

 大学は自主的な運営になるものの、経営方針を定める六年の中期目標と、第
三者機関の業務評価に基づいて配分される運営交付金は、いずれも国が決める。
手綱を握りながらの「アメとムチ」の改革であり、コントロールの内容によっ
ては論議を呼ぶだろう。

 改革の目的は「象牙の塔」と言われとかく民間との交流に乏しい大学を、よ
り開かれた学府にして研究と教育の質を高めることにある。発端となったのは
二年前、文科省が出した「大学の構造改革の方針」(通称・遠山プラン)。法
人化は柱の一つだが、大学の統合や、第三者評価による競争原理の導入も掲げ
た。これには、公務員と予算の削減も狙った「リストラ改革」の側面もある。

 法人化されると国立大学は地域や国の評価を気にしながらの経営となる。す
ると、メリットとデメリットが生まれるだろう。地域産業に結び付く研究や活
動には日が当たり、すぐ成果の表れない基礎的な分野は冷遇されないだろうか。

 学問や教育は、即効性だけを重んじては偏ってしまう。目立たなく時間も掛
かるが将来、社会に大きく貢献する基本的研究も重視したい。

 国立大学は今の社会と協調しつつ、高い志を持った総合的な教育、研究の場
と考えなければならない。学長は、実利優先の経営感覚だけでは務まらず高い
教育目標と展望が求められる。

 県民と弘大の関係を考えると、医学部、教育学部、農学生命科学部は卒業生
の多くが地元で活躍しているので地域密着度は高い。人文、社会科学関係は少
し影が薄いものの公開講座のテーマは豊富だし、これから一般市民との接点と
して期待できる。

 本県ならではの研究テーマはいくらでもある。白神山地や岩木山など豊かな
自然、雪の諸問題、リンゴ、ナガイモなどの特産品、三内丸山など豊富な縄文
遺跡、十三湊の栄えた中世からの歴史、民俗文化、方言。あるいは太宰治、寺
山修司ら特異な作家を輩出した文学風土など、他県にない魅力にあふれている。

 本県の地域特性を土台にするなら、国内でも誇れる特色ある大学になるだろ
う。法人化を、その契機としたい。