平成15年7月14日

 

国立大学長・大学共同利用機関長等会議における文部科学大臣挨拶

 

 本日は、ご多忙のところ、ご出席をいただき、御礼を申し上げます。

 本日の会議は、今国会に提出しておりました国立大学法人法案が、先週9日に成立したことを受けまして、国会における審議の状況や、今後の準備の見通しなどについて皆様方にご報告するとともに、立法のねらいを再度明確にし、日本の「知の拠点」の確かな形成に向けて、歩み出していただく契機とするために開催させていただきました。ご報告の件については、後ほど、高等教育局長や担当課長からご説明申し上げることとしておりますので、十分にお聴きとりいただきたく存じます。

 私からは、この場をお借りし、まずもって、法案の成立に至るまで、たいへん長きにわたる皆様方のご尽力とご協力に対し、深甚の感謝の意を表します。

 振り返りますと、今回の法人化の議論は、平成8年に発足した行政改革会議に端を発しております。当時は、「独立行政法人化」にとどまらず、「民営化」さえ検討の遡上に載せられるなど、文字通り「行政改革」の観点から国立大学の在り方が問われたことは、なお記憶に新しいところでございます。

 このような動きに対し、我が省ともども、各国立大学において、いち早く反対の意思を明確に表明していただいたこと、そして、その後の様々な経緯の中でも、常に国立大学関係者が国立大学協会などを通じて主体的に法人化の問題を取り上げ、議論をリードしてこられたことが、この問題を「大学改革」という本来あるべき文脈に引き戻す上での大きな力となったことは、紛れも無い事実であります。

 さらには、約1年8ヶ月にわたって具体的な法人像を議論した調査検討会議における検討や、その最終報告書を受けての法案の作成作業に至るまで、国立大学や大学共同利用機関の多くの関係者に積極的に制度設計に参画いただき、熱心に議論を交わし、いくつもの難しい決断を自ら乗り越えてきていただきました。そのことが、最終的に「国立大学法人法」という固有の法律を成立させた最大の原動力となったというのが、私の率直な受け止めでございます。

 さて、今回の法案の国会審議においては、様々な論点からのご議論がありましたが、その中でも、法人化後の国立大学と、文部科学省を始めとする国の機関との関係の在り方が、特に繰り返し取り上げられてまいりました。

 例えば、「中期目標を文部科学大臣が定めるという仕組みは、大学の教育研究の自主性・自律性を損なうおそれはないか」とか、「文部科学省に置かれる国立大学法人評価委員会の評価により、実質的に文部科学省による大学への影響が強まることはないか」といった指摘がございました。

 これらの指摘に対し、国会審議を通じて明らかにしてまいりました私どもの考え方については、後ほど、高等教育局長からそれぞれ説明させていただきます。

 この問題は、国民の税金で支えられる大学について、その「オートノミー」と「アカウンタビリティ」とのバランスをどう考えるのか、すなわち、法人化により大学の教育研究の自主性・自律性を拡大するという要請と、その費用を負担する国民に対して説明責任を十分に果たすという要請との調和をいかに図るか、という、各国の関係者を共通に悩ませている難しい課題であり、今回、国会における法案審議の場で十分にご議論いただいたことは、当然の結果と考えております。

 これらの疑問に対しては、国会の審議の場でも繰り返しご説明してまいりましたが、今回成立をみた国立大学法人法は、『国が設立し、責任をもって財政措置を行うことを前提としている独立行政法人制度を活用しながらも、大学の教育研究の特性を踏まえた基本的な枠組みを明確に位置付けた独自の法人制度であり、学問の自由を守り、大学の自主性、自律性が尊重される制度である』と私は確信しております。

 また、その運用面についても、法律第3条に基づき、文部科学省を始め関係する国の機関は、国立大学の教育研究の特性に対する不断の配慮義務が定められておりますが、その趣旨を確実に実現していくためには、「国立大学関係者と共に歩む」という私どもの姿勢こそが、何よりも重要と考えております。

 その上で、この際、この点を一層明確にするためにも、今後の制度の運用の在るべき姿についての私の考え方を、4つの原則にまとめて申し上げたいと思います。

 その第一は、いうまでもなく「大学の自主的な判断」の原則であります。

 中期目標については、その原案を大学が作成する一方、高等教育全体の在り方や財政上の観点などから文部科学大臣も関わることにより、大学と国とが十分に意思の疎通を図りつつ、協力して中期目標を形成していく仕組みとなっておりますが、中期目標の実際上の作成主体は、あくまでも各国立大学である、と私は理解しております。したがいまして、国としては、各国立大学が作成する原案については、財政上の理由など真に止むを得ない場合を除き、これを最大限に尊重するべきものと考えております。

 その他、制度の運用に当たっては、各大学の現場では、新制度ゆえの様々な戸惑いも出てくるものと思いますが、法人化の趣旨を踏まえれば、各大学において自主的にご判断いただくことが、大前提であります。我が省としては、各大学からのご相談に応じることはあっても、あくまでも各大学自身のご判断や運営ぶりを、一歩引き下がったところから支援させていただく、という役割に徹するべきものと考えております。

 第二は、「中長期的視点」の原則であります。

 申すまでも無く、各国立大学は、自主性・自律性の下に、その大学の個性や特色を踏まえ、教育研究の基本理念や長期ビジョンを自ら策定し、明らかにしていくことが期待されるところであります。

 本制度における中期目標や業績評価等の仕組みも、こうした大学が本来有するところの教育研究活動の長期的視点を当然の前提として、一定期間における質的向上のための改革サイクルとして位置づけられるものであります。

 このような観点から、制度の運用に際しては、例えば、業績評価は、教育研究活動の有する長期性に十分留意するとともに、評価結果と資源配分の関係についても、教育研究の中長期的展望や基礎的な教育研究分野の特性といった点に配慮した、慎重な対応が必要と考えております。

 また、同様の観点から、毎年度ごとの業績評価については、各大学における事業の進行状況を確認するといった程度のものにとどめることが、当然であると考えております。

 第三は、「透明性」の原則であります。

 国立大学法人制度を細部にわたって法令に規定することは、制度運用の柔軟性等の点で問題があり、一定の限界がありますが、法令で定めきれない運用面での適正さを担保する上で何よりも重要なものは、その透明性の確保にあるものと認識しております。

 こうした観点から、例えば、中期目標の策定に当たりましても、各大学の原案を公表するとともに、原案を審議する国立大学法人評価委員会の会議は公開すべきものと考えております。また、仮に各大学が作成した原案に修正を加える場合には、その理由を明らかにするなど、策定過程の透明性の確保に特に意を用いるべきものと考えております。

 さらに、運営費交付金等の算定に当たっても、透明性の確保の観点から、算定基準等を予め大学や国民に対して明確にお示しすることが必要であります。

 第四は、「柔軟性」の原則であります。

 国立大学の法人化は、国立大学にとって歴史的な大改革であります。それゆえに、制度の十分な定着を見るまでには、様々な試行錯誤が繰り返される可能性があり、また、それを許容しうる制度運用面での柔軟性が不可欠であると考えております。

 このため、財政措置、中期目標・中期計画、評価など制度運用の各般にわたる場面において、「各大学の特色や個性は十分に勘案されているか」、「手続きは簡素化されているか」、「国への提出書類は精選されているか」といった運用の状況を不断に検証しつつ、時間をかけて、国立大学法人に相応しい仕組みに育てていく必要があります。

 また、そのための前提の一つとして、評価についての大学からの意見申立ての機会を設けて、これを制度全体の運用面の改善にも反映させていくべきものと考えております。

 なお、ご承知のように、「国立大学法人法」には、国立大学と併せて、大学共同利用機関を4つに再編して法人化する内容も盛り込まれているところですが、これら4つの原則の考え方は、大学共同利用機関についても同様に適用されるべきものであります。

 以上申し上げてきました制度運用の原則は、これらを一言で申し上げれば、「国立大学と文部科学省との新しいパートナーシップの確立を目指す」ということになるものと考えております。国立大学は、文部科学省の組織から離れ、独立した法人格を持つ大学となるわけですから、互いの間に、従来以上により厳しい緊張感を保ちつつ、それぞれの立場において、国民や社会に対する説明責任を十分に果たす方向で努力していく、といった新たな関係を育んでいく必要があります。

 そのためには、まず、法人化の趣旨を互いに深く自覚するとともに、法人化以降の新しいパートナーシップの在り方を検証し、育んでいくための何らかの枠組みのようなものも検討に値するのではないか、と考えておりますが、この点については、国立大学協会のご意見なども伺いながら、今後、ご相談していきたいと考えているところでございます。

 また、新しいパートナーシップの確立のためには、文部科学省の事務体制の見直しと職員の意識改革も必要であります。これまでの予算編成等に見られるような文部科学省の各局課による具体かつ詳細な関与を排し、国立大学法人に関連する様々な事務を一体的に所掌する組織体制を確立すること、高等教育のグローバル化や生涯学習社会に対応し、国際競争力の強化に向けて政策立案機能を重視した組織編成とすること、さらには、日本学生支援機構の創設をも踏まえ、学生サービス機能の強化に対応した事務体制とすることなど、必要な見直しを進めてまいりたいと考えております。

 以上、国会での審議の状況を踏まえ、国立大学と国との関係について述べてまいりましたが、同じく約3ヶ月にわたる国会審議を通じて改めて明らかになったことは、世界も日本も難しい問題に直面する時代にあって、これからの国立大学の在り方に対する社会の各方面からの大きな関心と、法人化を契機とする国立大学の新生に対する熱い期待であります。

 そして、私自身、「国立大学の新生こそが、我が国の発展の礎である」と確信するとともに、法人化という国立大学制度の一大改革を契機に、各国立大学が、その個性や特色を大いに発揮され、国際的に通用する、魅力ある大学へと脱皮し、国民や社会に支持され、その期待に応える大学となることを、心から願っているものであります。

 そのためには、学術研究の推進による国際社会への「知の発信」とともに、特にこれまで問題とされた教育機能をより一層強化していただき、深い教養と優れた専門性を兼ね備えた人材の育成に、真剣にお取り組みいただくことが重要であります。また、大学が、社会に開かれた存在として、社会の動向や要請にも柔軟に対応しつつ、人材養成と学術研究を通じた幅広い分野での社会貢献にご努力いただくことが必要であります。

 各国立大学が、学長の皆様方のご尽力の下に、新しい法人制度のメリットを最大限に活かして、真の自主・自律の体制を整え、社会と真剣に向き合い、長期的展望に立って、教育に、研究に、さらに社会貢献にと、実りある展開を図られることを期待しております。

 法律が成立し、来年4月の法人化に向けて、各大学においては、ご準備をさらに進めていただくことになりますが、我が省といたしましては、各大学の自主性・自律性を十分に尊重しつつ、制度の大きな移行期という状況に対する責任をも自覚した上で、引き続き必要な情報の提供や相談への対応に適切に努めていきたいと考えております。もちろん、その際には、国立大学協会とも引き続きしっかりと連携・協力しつつ対応していくつもりでございます。

 また、国立大学の法人化を契機に、国としての支援の拡充についても、一層の努力を傾注してまいる所存です。同時に、私は、建学の精神に基づき運営されている私立大学に対する支援も充実する必要があると考えており、日本の大学が、国公私の設置形態の特色を発揮しつつ、世界水準の大学として、個性と魅力を持ち、日本の未来のため、世界への知的貢献のために、一層活性化されることを期待いたします。

 ここで一点、付言したいことがございます。それは、国立大学の法人化がそれ自体を目的とするばかりでなく、現在進めている初等中等教育、高等教育を通じた、大きな教育の構造改革というべきものを、真に実現するために不可欠な改革と言えるからであります。

 21世紀の我が国の未来を見据えるとき、人材養成の重要性はいや増しており、優れた教育に対する国民の期待は極めて大きいものがあります。本日、資料の一つとしてお手許にお配りしているパンフレットは、小学校から大学まで各学校段階を通じ、「画一と受身から自立と創造」を目指し、「新しい世紀を切りひらく心豊かでたくましい日本人の育成」という高い理想のもとに、目下、様々な教育改革が進んでいることを整理してお示ししております。

 この考え方は、すでに初等中等教育関係者にも伝え、4つの具体的理念のもとに改革に取り組んでもらっております。初等中等教育での学力低下を食い止め、真の「確かな学力」を身につけさせるとともに、「豊かな心」を備えた子どもたちを育成するべく、国も地方も全力を注いでおりますが、遠からずそうした成果を体現した子どもたちが大学の門戸を叩くことになります。どうか大学側におかれても、それに十分応える教育体制をご準備いただきたいと存じます。

 さて、国立大学の新しい時代の幕開けが、目前に迫っております。法人化を契機に、皆様方の大学が、国立大学としての使命を存分に発揮されますことを心から祈念いたしまして、私のご挨拶とさせていただきます。