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独行法反対首都圏ネットワーク


『読売新聞』社説  2003年7月11日付

[国立大法人化]「ギルド体質からの脱皮が必要だ」


 ボールは大学側に投げられた。しっかりと受け止め、投げ返せるかどうか。

 国立大法人法が成立した。

 来春には、八十九の独立した国立大学法人が誕生する。国から運営費交付金
は配分されるが、会計や人事の裁量は大学にゆだねられる。

 目的は、国立大学の教育、研究の向上であり、地域への貢献、産業との連携
の推進である。それによって、国際的に優れた評価を得ることも狙っている。
大学改革の契機とせねばならない。

 大学は、運営面の自主性、自律性を認められる代わりに、六年間の中期目標、
計画の原案を文部科学省に提出し、目標の達成度も評価される。「アメとムチ」
の政策と受け取る大学関係者もいる。

 法成立間際に基礎研究分野の教官らから反対する動きが出たのは、「国の介
入が強まる」との懸念があったためだ。中期目標の最終的な決定権を文科省が
持っており、研究内容も評価の対象になることが、その背景にあった。

 税金で維持される以上、巨大施設の重複などは避けなければならない。その
ためにも、最低限の国の関与は当然だ。

 評価にしても、イギリスのように、国の外郭機関が研究内容などを判定し、
助成金交付額決定の材料にする評価システムをとっている国は少なくない。

 日本でも、大学にカリキュラム編成の自由を与える代わりに、自己点検・評
価の実施が強く求められた時もあった。だが多くは自画自賛の報告に終わった。

 評価を予算に反映させるシステムがなかったため、そうなった。しかし、こ
れからは、中期目標の達成度評価が大学の存亡にもかかわりかねない。優れた
研究チームに予算を重点配分する「21世紀COEプログラム」が昨年から実
施されるなど、研究評価は定着しつつある。

 これからカギになるのは、大学側が自校の今後の姿について明確なビジョン
を打ち出せるかどうかだ。すぐには結果の出ない基礎研究分野を安易に切り捨
てれば、大学の見識が問われる。同時に、各大学が得意分野に力を入れ、特色
を作っていくことも大切だ。

 中世のヨーロッパの大学は、教師や学生のギルド(同業者組合)によって運
営された。大学の自治の模範とされた。だが、構成員の利益だけを考える閉鎖
的な面もあった。

 日本の国立大学にも、ギルド的な、大学、学部自治、学科本位の体質が抜き
難くあった。それでは、国際的な競争に勝ち抜けない。国立大学もギルド的な
集合体から脱し、社会的使命を自覚した、有機的な組織に転換すべき時である。