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独行法反対首都圏ネットワーク


『西日本新聞』社説  2003年7月10日付

「独立性」が問われている 国立大学法人


 大学と学問の自由は果たして守られるのか、とあらためて不安を募らせた大
学関係者は多いのではないか。

 国立大学を法人化する国立大学法人法が、参院本会議で与党三党の賛成多数
で可決、成立した。

 これにより、国立大は国直轄から切り離され、来春から八十九の独立した国
立大法人として生まれ変わる。明治の帝国大学設立以来、国の護送船団方式で
運営されてきた国立大の大きな転機である。

 とはいえ、その実態は「独立」とは、ほど遠い、といわねばならない。

 教育研究や組織運営など大学の中期目標を文部科学大臣が策定し、それに従
い大学がつくる中期計画も文科相の認可が必要になる。その達成度も文科省の
下にできる機関の評価を受け、結果が予算配分に反映されるなど、従来より
「文科省の介入が強まる」との懸念が強い。

 法人化ではなく、「文科省立大学化」とやゆされるゆえんである。

 国立大法人の役員会のメンバーである監事(各大学二人)も文科相が任命す
るため、文科省官僚が大量に天下りするとの見方が強い。大学は官僚の天下り
は認めないくらいの姿勢を示してほしい。

 大学自治の独立を貫き、自主自立の精神を発揮することこそが、「大学の自
主性を高め、個性化を図る」とした法人化の目的にも沿うのではないか。

 法人化を、大学は個性ある教育・研究の創造につなげ、社会的貢献をいっそ
う果たすための試練と受け止め、大胆な戦略を構築し、行動してもらいたい。

 そうした覇気がなければ、「文科省支配」の懸念はいつまでもぬぐえまい。

 図らずも参院では、法人化をめぐる文科省の大学への「介入」が判明して委
員会が空転、イラク支援関連法案による国会の会期延長に救われたが、一時は
審議未了・廃案の可能性もあった。

 法律も成立していないのに、文科省が法人化後の中期目標・計画策定に関す
る詳細な資料を国立大に求めるなど“予行演習”を始めていたことに、野党が
「事前関与だ」とかみついた。

 参院の委員会が「大学の自主・自律的運営」「中期目標で文科相は個々の研
究に言及しない」など二十三もの事項を与野党の賛成で付帯決議したのも、文
科省支配への懸念が強いことの裏返しだ。

 文科省の過剰介入を戒める付帯決議は衆院でも行われている。文科省はこれ
を肝に銘じ、法人化後の大学との関係は透明性・公正性の確保に最大限努力し
なければならない。国会の監視も必要だ。

 また、六年間の中期計画を軸に大学の評価が行われるため、短期的に成果が
上がり、国策におもねた教育・研究がはびこる、との指摘も少なくない。

 大学が本来担うべき長期的な学術研究が軽視されないよう文科省は十分配慮
すべきである。地道な基礎研究などが先細りになっては、国力の衰退につなが
る。