トップへ戻る   東職HPへ戻る
独行法反対首都圏ネットワーク

『高知新聞』社説  2003年7月10日付

【大学法人化】羊頭狗肉とならぬか


 きのう成立した国立大学法人法は看板の「自主・独立・自己責任」とは裏腹
に、国家統制の色が濃い。野党からは羊頭狗肉(ようとうくにく)との辛らつ
な批判もあり、法の運用がそうあってはならない。

 大学法人化は一昨年の遠山文部科学相による大学の構造改革「遠山プラン」
に基づいている。市場原理の導入によって公務員として甘えてきた教職員の自
覚を促し、大学の活性化を図る狙いだが、経済の視点と教育は相いれない部分
があり、効果には多くの疑問がある。

 学部の教授会が仕切ってきた大学運営の形態が変えられた。理事、監事らで
構成する「役員会」、委員の半数を学外有識者が占める「経営協議会」、教育・
研究面を審議する「教育研究評議会」の3機関を設置し、いずれも学長が議長
を務める。

 学長の権限は強まり、改革は進めやすい体制だが、各機関の委員構成によっ
ては「自治」が遠ざかる恐れがある。

 新たに選任される理事、監事は全国で500人を超えるといわれる。昨年度
に50を超す独立行政法人が生まれたが、常勤理事のほとんどが省庁から天下
りした高級官僚だったため批判を浴びた。それと同様の図式になりかねないだ
ろう。

 事務の効率化は職員の研修に積極的な私立大の方が進んでいるとされる。後
れを取った国立大の中には、文科省からの天下り官僚を採用する大学も既にあ
り、人材の取り合いの様相が見え始めている。天下りの温床となっては本末転
倒だ。

 国の関与は研究内容にも及ぶ。文科省が各大学の「中期目標」を立てて、達
成度評価も文科省内に置いた法人評価委員会が行う、となっている。遠山文科
相は審議の中で「学問の自由が侵されることはない。個別の研究の評価は行わ
ない」と答弁しているが、それは法で保障されているわけではないのだ。

 評価委員会の裁定に基づく運営交付金も国の財政難で多くは望めない。少子
化時代に入り、人気のない大学、地方の大学では勢い現行標準額52万800
円の授業料の値上げへと向かいかねない。貧しくともエリートになる道を開い
てきた国の最高学府は、確実に変容するだろう。

 忘れてならないのは地道な研究を支えてきたのも国立大である点だ。素粒子
ニュートリノの天体からの観測でノーベル賞を受賞した小柴昌俊氏の例もある。
そうした基礎的研究の確保の問題も残されている。